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- 命の軌跡を後世に残したい 石雲禅寺の吉田慈光さん 小説「うたかたの月の下で」出版 パパラギの里での生活を執筆 引きこもりの少年、学び直しに励む女性…
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2023-02-09
20年以上暮らす「パパラギの里」で多くの人の協力で小説「うたかたの月の下で」を執筆した吉田慈光さん
盛岡市渋民の石雲禅寺の吉田慈光(じこう)さん(45)=山形県西川町出身=は、同寺敷地内の宿泊・生活施設「パパラギの里」での暮らしを基に、小説「うたかたの月の下で~貧しくも美しい物語~」を執筆した。このほど、パパラギの里出版部から刊行された。実話を基にした物語の執筆には周りの人たちの協力があり、小説を読んだ人から感想が寄せられるなど、温かな交流が生まれている。
吉田さんは、盛岡大在学中の1998年にパパラギの里に移り住み、ともに暮らす親子や幅広い年代の人たちと数々のエピソードを重ねてきた。
さまざまな境遇を抱えた住民たちとともに笑い、泣き、支え合う中で、「真剣に向き合ってきた命の軌跡を幾らかでも後世に残したい」と、10年以上前に小説風に書き起こすことを構想。草稿までいくものの何度か挫折したが、新型コロナ禍で全国を回る托鉢(たくはつ)を休んだこともあり、この2年で原稿を書き進めた。周りの人たちに助言をもらいながら、ようやく書き上げた。
本書には、引きこもりの少年が食事づくりを通して周りの人たちと心を通わせていく様子、学校の集団行動になじめず、学び直しに励む女性―。「年寄りは年寄りなりに、そのまんまを見せてあげなさい」との言葉を贈られた「八重さん」のエピソードでは、見送る里の人たちの心に明かりをともし、別れの日を迎えるまでがつづられた。
忘れられないエピソードとして、母屋の火事にまつわる出来事も取り上げ、「理不尽なことが起きたとき、どのようにして前に向かって進んでいけばいいのか書き残しておきたかった」。
日々を営む一つ一つのエピソードには、社会で必要とされる効率性や生産性とは異なる視点が浮かんでくる。
「食事会のイベント一つにしても、ある一人の命を育てようということから始まる。その人を生かすために何をしたらいいかと全体が動く」と、血縁ではない「大きな家族」の存在に触れる。「他の家族にもあてはまることがあるのではないか」と、読む人それぞれの経験で読み取ってもらえるよう、説明的になりすぎないように表現した。
小学校の教員免許取得を目指していた吉田さんは、今後の生き方に悩んでいた大学3年の夏、知人の紹介で同施設を訪問。高校時代は寮生活で集団生活になじみがあり、すぐに「ここに住みたい」と心に決めた。
寮生活で畑仕事や牛の乳搾りなどを経験していたこともあり、「人生を最後に助けてくれるのは、暮らしの力。ここにも暮らしがベースにあった」と迷いはなかった。
卒業後はアルバイトを経て、2001年11月に出家得度。翌年から臨済宗の女性専用の道場で3年半修行した。21年には、同じく石雲禅寺・パパラギの里で暮らす佐藤紹禀(じょうりん)さんが自らの歩みをつづった「雪あかり」を出版。その縁で、「うたかたの―」を手にし、感想を手紙で寄せてくれた人もいた。
「ご縁をいただき、心から感謝。たくさんの方々の力が結集してまとめることができた一冊。何かを感じ取って、思いを寄せてもらえるのはうれしい」と笑みを浮かべた。
「うたかたの月の下で」は、A5判、207㌻、税込み1200円。盛岡市内の主な書店で扱っているほか、郵送もしている。問い合わせはパパラギの里出版部(電話019―683―1469)へ。
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