2023年
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郷土の刀工の技術 全国に知らしむ 御刀研師の阿部義貞さん 現代刀職展研磨の部 日本美術刀剣保存協会長賞を受賞

2023-02-21

 盛岡市西見前の「刀剣徹斎」で研磨する刀の肌を確かめる阿部義貞さん

 磨き上げた郷土の刀で、全国2席に―。盛岡市西見前の「刀剣徹斎」代表で御刀研師(とぎし)の阿部義貞さん(72)は、2022年現代刀職展(日本美術刀剣保存協会主催)の研磨の部で、2席にあたる日本美術刀剣保存協会会長賞を受賞した。宮古市の刀工、堰代宗次(せきしろ・むねつぐ)さん(故人)が作った刀を研ぎ、阿部さんにとって過去最高位の栄誉に輝いた。「郷土の刀工の技術を全国に知らしめることができた。堰代さんと2人で賞を取ったという思い」と喜びをかみしめる。

 同展は、刀剣の伝統技術の保存と向上を図り、現代技術の優秀さを広く知ってもらい、文化財としての刀剣への関心を高めることを目的に開催。22年は5部門に126点(無監査12点含む)の出品があり、研磨の部には79点が寄せられた。

 阿部さんが受賞した日本美術刀剣保存協会会長賞は、文部科学大臣賞に次ぐ特賞の一つ。

 出品刀は、刀の側面に山高い筋を作る「鎬(しのぎ)」がなく、刀の古い形である「平造(ひらづくり)」によるもの。地元では刃物鍛冶としても知られた堰代さんが1959(昭和34)年に仕上げた長さ32・7㌢の脇差(わきざし)。

 「鍛えた地肌。(現在の山形県発祥で)月山肌(がっさんはだ)といわれる波のうねりのような綾杉肌が見られるなど、練り上げられている。地方色とともに高い技量を感じさせる」と、その印象を語る。


 往年の刀工堰代宗次さんの刀を研磨し、「現代刀職展」で日本美術刀剣保存協会会長賞に輝いた刀

 研磨は下地研ぎから仕上げ研ぎまで、粗さの異なる砥石(といし)などを使って、すべて手作業。今回の出品刀は、刃文(はもん、刀身に見ることができる波模様)の白さを際立たせる「刃取り」の作業で、白から黒に変わっていく部分にぼかしをかけて品を出した。

 美術刀剣の世界では、500~600年たっている刀など古い名刀を研ぐ場合が多く、下地作りなどに手間のかかる現代刀での特賞は珍しい。地方の刀工の現代刀を同じく地方の研師が磨くのも珍しいという。

 阿部さんはこの数年、岩手にゆかりのある刀を研磨して出品を重ねており、喜びもひとしおだ。

 阿部さんは、祖父の代から続く研師3代目。1973年に大学を卒業後、75年に2代目の父徹斎に弟子入り。試行錯誤を繰り返していた中、85年に現代刀職展の前身である研磨技術等発表会で努力賞を受賞。「道が開けた。この仕事で飯を食べていける」と一条の光を見いだしたという。

 それから37年を経ての特賞に感慨も深い。「刀は長さ、重さ、反りなど一つ一つに個性がある。その形を壊さないよう、刀に寄り添い、自分の体を合わせていくことが大事」と、日々研鑽(けんさん)の道を歩む。

 阿部さんの出品作など特賞の刀剣は、昨年11月29日から12月25日まで東京都墨田区の刀剣博物館に展示された。



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