2023年
6月9日(金)

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「今年行くべき」のその先へ 米紙の影響と対応、展望を見る

2023-05-11

 1月に米国ニューヨーク・タイムズ紙(NT)の「2023年に行くべき52カ所」に盛岡市が挙げられた効果は、同市の観光客の増加という形で現れている。同時に、NTの記事で取り上げられた場所にとどまらず、幅広く同市の、ひいては本県の魅力を伝える好機と捉え、PR活動を展開する動きもある。記事で紹介されたカフェジャズ開運橋のジョニーと、盛岡城跡公園に隣接するもりおか歴史文化館を訪ね、訪問者の状況や今後必要になることなどを聞いた。(相原礼以奈)

 音楽に浸れるカフェジャズ開運橋のジョニー。NT効果に驚き、「夢にも思っていなかった」と笑う照井さん

■ 永遠には続かないこと念頭に カフェジャズ開運橋のジョニー 継続した魅力の発信を意識

 カフェジャズ開運橋のジョニーには、記事掲載以降、特に外国人の訪問者が増えたという。現在は火、水曜の週2日営業。店内が外国人客で埋まり、英語の会話が飛び交うという状況の日もあった。

 店主の照井顕さん(76)は「記事が出たときは『まぁそんなもんでしょ』と思っていたが、じわじわと影響を感じる。イギリスの写真家が友達と訪ねてきて、その人が、私が昔作ったレコードのジャケット写真を担当した人だった。分かったときは、興奮して抱き合った」と笑い、奇跡的な出会いも喜ぶ。

 「どんな業界でも、注目される人や物が必要」と考える照井さん。影響力の大きいNTの記事に、「Jazz」の言葉が入ったことに、「ジャズ界にとってすごくいいこと」と力を込める。同市内のカルチャー教室で講師を15年務めるジャズ講座の受講者数が倍増したことにも、影響を感じている。

 報道の効果をじかに感じながら、「盛岡に来て、帰った人たちが話をしてくれると、(影響は)しばらく続くと思う。その波及効果が来年にもつながる」と見込む。

 一方で、「いいときは一瞬」とも。「業界全体、街全体の上昇気流が始まったと思うが、永遠には続かないことを頭に入れて、飽きさせないで魅力を発信することが求められる」と現状を見据えている。

 4月に同店を訪れた吉田端三さん(71)=東京都品川区=は、かつて臨時職員として派遣され陸前高田市で働いた。喫茶店好きで、NT報道で同店に関心を持ち、一関市に友人を訪ねるのに合わせて、盛岡市にも足を伸ばした。

 来店して同店と陸前高田市との縁を知り、照井さんとの軽妙な会話も楽しんだ。吉田さんは「NTで知って来て、陸前高田で聞いていた店ともつながった。本屋も好きで、盛岡のさわや書店もユニークだと思う。喫茶店も本屋も、なかなか地元のお店というのはないので、そこを見たい」と目を輝かせていた。


 もりおか歴史文化館内の新しい案内表示。「何が親切かと考え、文字の大きさも確保した」と篠原さん

■ より良いもてなし模索 もりおか歴史文化館 外国人来館者増受けて

 もりおか歴史文化館(柴田道明館長)は、盛岡城跡公園を訪れる人々が休憩などで立ち寄ることも多い。

 1月~4月28日の期間で比べると、19年は総来館者数4万7061人のうち外国人779人(1・7%)だったのに対し、23年は総来館者数4万1980人のうち外国人844人(2・1%)。20~22年の同期間は新型コロナウイルスの影響で来館者が激減していたが、23年は4年ぶりに4万人を超え、外国人の比率はコロナ禍前を上回った。ミュージアムショップの売り上げは、19年比1・5倍となっている。

 スタッフによる外国人来館者への聞き取りなどで、台湾、香港、米国、ブラジル、スウェーデン、ノルウェーなど世界中の国々から訪れていることが分かった。3月には外国人来館者向けのアンケートも作成。スマートフォンなどで利用できる通訳ガイドの英語版は、月300件以上の利用があるという。

 同館経営管理の篠原竜彦さん(54)は「ヨーロッパの人たちは集団のバスツアーを好まないと言われているが、きちんとしたコーディネーターが付けば来る。それは19年にはなかったことで、そうしたツアーの行き先に盛岡を押し上げてくれたのがNTの報道」と分析する。

 外国人来館者の増加を受け、館内20カ所ほどの案内表示を見直している。これまでも複数の言語で案内していたが、今回は見やすさを重視し、日本語と英語に絞って文字の大きさを確保した。

 施設の使い方も、文化の違いによる問題が起きないよう対応。例えば、トイレットペーパーをトイレに流してはいけない国もある。そうした国では通常、トイレ個室に専用のごみ箱を設置しているが、日本にはないため困惑する。そのため、トイレの使い方を説明する張り紙を用意した。

 篠原さんは「そういう文化の人たちが来ても、もてなせることは大事。一つ一つ起きることに対して、できるサービスを考えている」と、きめ細かなもてなしに余念がない。

 季節ごとの表情が魅力の盛岡城跡公園。そこを舞台とした歴史や、現在につながる文化を紹介する同館。

 篠原さんは「南部家、盛岡藩は盛岡の人たちが大事に思っているもので、陰ながら、それをつないでいく推進力になる応援がしたい。すべての人に開かれた館として、歴史の収集と保存、閲覧を通し、広く文化を伝えていきたい」と役割を捉える。

 NT効果を踏まえつつ、「NTだけでなく、本当にいいんだということを見つけてもらい、広めてもらうことが大事」と展望し、「いまは一億総オピニオンリーダー。自分が気になった盛岡のいいものを表現することは、やっていった方がいい」と強調する。波及効果の鍵を握るのは、市民一人ひとりの意識かもしれない。



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