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「新冷戦」の予感SFで 大石英司著 オルタナ日本 岩手で日中が衝突? 国際リニアコライダー舞台に

2020-08-16

「オルタナ日本」上下

 作家の大石英司氏著「オルタナ日本」が話題になっている。岩手県も舞台にしたシミュレーション小説。国際リニアコライダーを中国人民解放軍が占領し、時空の征服をもくろむ。ありえたかもしれない日本と中国が、仮想の世界に相まみえる。新型コロナを思わせる伝染病を絡ませ、人類の危機を予言。あるべき国のかたちとは。SFの手法で問いかける。
(鎌田大介)

 大石氏は近未来戦記や軍事サスペンスに多数の作品がありソ連、ロシア、中国、北朝鮮、米国などを相手取って日本がいかに戦うか、現実の国際情勢に即して物語る。

 「オルタナ日本」はSFにおいて「パラレルワールドもの」と呼ばれるジャンル。別の次元の世界にもうひとつの日本がある。そこでは中曽根政権時代の改憲により陸海空の3軍を保有し、バブル景気はそのまま拡大して、世界の覇者になっている。中国は天安門事件で国際的に孤立し、いまだ完全な共産主義下にある。

 その日本では岩手県に国際リニアコライダーがもう実現している。世界を襲った未知の疫病と地球滅亡の危機に乗じ、中国は日本を攻めて国際リニアコライダーを占領し、その原理を利用した超自然的な作戦をもくろむ。経済大国化した中国が覇権を握る、もうひとつの世界に転じようと。大石氏に作品の狙いを聞いた。

 ―近未来戦記についてはかつてソ連、次に米国が相手の作品も登場し、今は北朝鮮や中国相手の作品が多い。この30年ほどどのような流れで見るか。

 大石 現状分析としてはとにかく「こんなはずではなかった」の一言に尽きる。世界情勢の未来予測の中で、米国の衰退と混乱はある程度予測できただろう。ロシアの現状もあんなものだろうという予感があったにせよ、こと中国に関してだけは共産党指導下での現在の繁栄と覇権を予測できた人間は、中国人を含めても一人もいないと思う。

 何もかも計算違いだった。米国の関与政策は全て失敗し、あれだけ諸外国と深く関与し、欧米に多くの留学生を送り出して自由主義に触れさせながら、国内ではいまだに共産主義が盤石で、世界がその経済力の前にひれ伏している現状を20年前あるいは10年前に、誰が予測しただろう。

 中国は世界の工場として稼働しつつも緩やかに民主化するだろうと思われたし、期待もした。私はこの十数年もっぱら中国との間に、起こりうるかも知れない争いに関して書いてきた。いずれどこかで中国の政治体制も変革するだろうと期待もしたが、今はあらゆる幻想を捨てた。

 21世紀の前半は間違いなく共産中国が、その独裁的手法で世界を支配することになるだろう。最近報道される対中包囲網とか、いよいよ米国が本気になったなどという話は、一切信じていない。日本の先行きも含めて、世界は暗い時代に突入しそうだ。

 ―国際リニアコライダーについて作家としてどのような関心を抱いたか。

 大石 日本にはすでにカミオカンデがあり、これはスーパーさらにハイパーカミオカンデと進化し続け、ノーベル賞も取り、世界の素粒子研究に大きく貢献している。

 重力波望遠鏡のKAGRAもいよいよ稼働し米国のLIGO、欧州のVIRGOと並んで、世界の3エリアによる重力波観測網がようやく完成した。素粒子研究において残る重要案件は大型加速器のみ。ぜひ欲しい。ひとたび施設が立ち上がれば、世界中から常時千名前後の研究者が常駐する。東北地方に最先端の町が一つ誕生するだろう。日本は、宇宙物理学研究の分野で世界の最先端を走り、貢献することになる。

 しかし現状としては、大学および学術研究予算が年々絞られる中で、1兆円を優に越えるリニアコライダーの建設は難しいものがある。スイスがぶち上げたCERN後継案に至っては総額3兆円ものプロジェクト。日本学術会議の反対意見などもあり、日本の科学界全体として、それを推進する雰囲気にない。

 資金面の問題で西側世界がもたもたしているうちに、中国は間違いなく自前の大型加速器を建設することだろう。それは当然西側のその規模を越えることになる。その計画はすでに動き出している。

 中国との関係が悪化する西側世界にとって、素粒子研究で中国の先行を許すわけにはいかず、この問題は科学から安全保障問題へと性格が変化する可能性がある。ことが安全保障問題となると、各国が共同し、本来なら出るはずもない予算が出てくる可能性はある。

 「オルタナ日本」は中央公論新社から上下2巻各1千円。



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