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書家伊藤康子さん 「残る仕事」のその先へ 筆文字で恩返しを 「人から人へ」を意識して

2021-01-04

「笑う門には福来る」。今年が明るい年になるよう思いを込めた伊藤さん

 言葉のイメージをくみながら、自在に展開する筆文字。盛岡市在住の書家、伊藤康子さん(57)=青森県出身=は、個展を開いて作品を発表するほか、店舗のロゴや出版物、テレビ番組の題字など幅広い分野で活躍している。今年5月には、題字を手掛けた映画「HOKUSAI」(橋本一監督、製作/「HOKUSAI」製作委員会、配給/S・D・P)が、新型コロナウイルスによる延期を経て公開される予定。2019~20年は特に後世に残る仕事を続けて経験したという伊藤さんに、書の仕事への思いを聞いた。(相原礼以奈)

 伊藤さんは弘前市に生まれ、小学校低学年から書を始めた。佐藤中隠氏、対馬芝峰氏に師事。29歳で盛岡市に移り、1995年に盛岡初個展を開催。個展をきっかけに、仕事の依頼を受けるようになり、雫石町道の駅「道の駅雫石あねっこ」(2001年)、盛岡さんさ踊り(12年)、作家・平谷美樹さんの著書(複数)など多くのロゴや題字を担当してきた。


洋野町・八坂神社の神額(伊藤さん提供)

 19年には、洋野町の八坂神社と鳴雷(なるいかづち)神社の神額の字を担当。以前から親交のあった両神社の坂本守弘宮司からの依頼によるもので、神額は20年3月に完成、奉納された。

 揮毫(きごう)前に両神社を参拝。持ち帰った手水(ちょうず)の水で墨をすって書いた。八坂神社は依頼された楷書で書き、鳴雷神社の書体は「雷には『神の鳴る声』との解釈がある。象形文字を使い、生まれたままの自然に近い字で書こうと考えた」と振り返る。


洋野町・鳴雷神社の神額(伊藤さん提供)


 過去には十和田市の旅館からの依頼を十和田湖の水で書いたことがあり、盛岡市の青龍水もお気に入りという。水のほか、仕事道具の紙、筆、墨にもこだわる。伝統工芸士・岡村日出正さんのすく紙にほれ込み、鳥取県まで訪ねたことも。「墨も紙も職人さんの手仕事で、みんな、関連し合って1本の綱のように出来上がっていく」と実感を込める。

 19年は、弓師・杣友介さんの「弓工房 杣」(岩手町)の手拭いや焼印の字も担当。紫波町消防団第3分団第3部の依頼で、新車両に入れる力強い「火の用心」の文字も書いた。


 「弓工房 杣」の焼印の字も担当。完成した弓に入れる雅号(伊藤さん提供)


 非常勤講師として18年通う三愛学舎(一戸町)では昨年、体育館に掲げる校歌の歌詞を書く機会があった。

 「ありがたいことに、残る仕事をさせてもらっている。もともと、消費されるものでいいと思っていて、広告の仕事はぴったりだと思ってやってきた」と伊藤さん。「残る仕事は変なプレッシャーがあるが、落とし穴を仕掛けるようないたずらっぽい感覚。将来、自分と縁もゆかりもない人に(作品について)話してもらうのも悪くない」と笑う。

 18年から、盛岡市盛岡駅西通のアイーナで月2回、「書稽古処 秀華庵(しょげいこどころ しゅうかあん)」を開いている。自由に書に取り組んで高め合う「ちょっとわがままな大人の書の教室」。教室の詳細は伊藤さんの公式ウェブサイトで案内している。

 書を教えることは長年敬遠してきたが、50歳で無経験からバレエを始めたことで、体の管理だけでなく、人生への意識も大きく変化。「人から教えてもらい、人に伝えることで、人は初めて完結する。それを教えてもらった。育ててもらってここまで来たので、ようやくお返しできる。そういう思いでやっている」と声を弾ませる。

 「この先も、相変わらずこのペースでいくと思う」と気負いはない。「周りの人から形の違うものをいただいて、字を書くことで世の中に恩返しをしていきたい」と前を見据えている。



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