2021年
9月20日(月)

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「氷柱の声」書籍化 くどうれいんさん 「言えなかった思い」紡ぐ

2021-07-16

出版された「氷柱の声」

 「『震災もの』というものはそもそもなくて、どんな立場でどこにいても、みな震災を経験し、私たちの日常に続いている」―。盛岡市の作家で会社員のくどうれいんさん(26)は、初めて商業誌に発表した中編小説「氷柱(つらら)の声」を書き終えた思いを語る。東日本大震災が起きたときに盛岡の高校生だった伊智花(いちか)の10年を軸に、同世代の人々の経験や語る声を紡いだ作品。自分と同じ、20代の取材相手との会話一つ一つから言葉を紡ぎ、考え、自分の言動を振り返りながら時間をかけて書き上げた。

 掲載は「群像 2021年4月号」(講談社)。物語は、高校の美術部員である主人公が、画布に「不動の滝」の絵を描き始める場面から始まる。その絵が完成する前に東日本大震災が起こり、21年までの10年間の日常が、出会った人たちの思いと重なりながら描かれていく。

 執筆のため、岩手、宮城、福島にゆかりのある7人に取材。「『言えなかったこと』『言うほどじゃないと思っていること』を聞かせてください」と連絡を取り、「相手が話したいことだけを聞く」ことに徹しようと決めていたが、聞き手としての自分の気持ちが先行し、仕切り直しを頼んだこともあった。

 自身は、文芸部に所属していた盛岡三高時代に東日本大震災を経験。内陸に生活し、直接的な被害を受けていないという思いから、震災を取り扱う表現作品に手を伸ばすことに「勇気や覚悟が必要だった」。

 毎年3月に当時を振り返る日記を書いていた時期があったが、「ちゃんとした手触りで書けることが少なくなってきている。当時の自分の経過があやふやになっている」と怖さを感じていた。昨年夏ごろに「群像」編集長から創作の依頼があり、これまで自分が抱えてきた思いとタイミングが合って「挑戦してみよう」と思えた。「もともと10年を節目だとは思っていない。縁あってこのタイミングになったが、取材に協力してくれた人たち、書ききるまで長く待ってくれた編集部の皆さんのおかげで完成させることができた」と息をつく。

 高校時代から短歌、俳句、随筆など多ジャンルで活躍し、最近ではエッセーが話題になることが多いが、「架空の人物として描くことで、『もしかしたら、これ、私のことなんじゃないか』と思ってもらえるかもしれない」と小説の形式に可能性を探る。

 芥川賞候補になり、大いに注目されたが、「東日本大震災という大きなものが発生したとき、それぞれの立場にそれぞれの必死さがあり、それぞれの傷があったんじゃないかという視点は持ち続けたい」と気持ちを引き締める。

 「氷柱の声」は、四六判ハードカバー、128㌻、1485円(税込み)、講談社。



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