2021年
11月27日(土)

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アートでつながろう(上) 閉校の校舎にあふれる創意 芸術村あーとびる麦生 〝ほんわか〟を提供 展示室のほか 創作室やジャズ喫茶も

2021-11-11

 約2年にわたり続く新型コロナウイルス禍は、人々に分断をもたらした。各種イベントの自粛が求められた期間は、当たり前にできていた「つながる」ことの大切さが浮き彫りになった時間でもあった。人同士の心のつながりを生むものの一つに芸術がある。地域を越えた人のつながりをたどり、豊かな心の交流を築く場と取り組みを探りたい。10年前の東日本大震災を経験した本県沿岸地域で、アートで地域を元気にしている拠点を訪ねた。(相原礼以奈)

 ■「開村」12年目

「スタッフは芸術や音楽を愛するファミリー」と話す理事長の「熊さん」こと熊谷行子さん

 芸術村・あーとびる麦生(むぎょう、久慈市侍浜町3の36の1)は2010年6月、前年に閉校した久慈市立麦生小中の校舎を活用して開村。4~11月の土日の開館で企画展や制作体験、コンサートなどを開催してきた。

 設立のきっかけは、閉校記念制作を指導するため、同市の美術家・熊谷行子さん(78)=現あーとびる麦生理事長、通称・熊さん=が同校を頻繁に訪れていたこと。美術展示にとどまらない総合芸術施設として、「芸術村」の名を冠する。

 2年目の開館を控えた11年3月11日に東日本大震災が発生。16年8月の台風10号でも、同市は甚大な被害を受けた。人々を元気づけようと訪れた人があーとびると縁を持ち、200人超の観衆を集めた「絆の祭典」も生まれた。度重なる災害にも負けず、市内外の人々の芸術創造や交流の場となっている。

 ■各所に多彩な展示

 教室や体育館、廊下などが展示スペース。県内外の作家作品を多数展示し、全館見て回っていると、時間を忘れてしまうほど。

 現在、11月末までの会期で開かれている(一部は来年度も継続)のは、▽日下信介絵画展▽村田とも子絵画展▽アイをはぐくむ集い展▽宇部澄男「正方形の窓」展―など。


元教室の展示室で開かれている「村田とも子絵画展」

 常設では、久慈市の各所を描いて市民に親しまれた故みはらあきらさんを顕彰する部屋、彫刻作品を展示する中庭など、各所に魅力があふれる。

 創作室やジャズ喫茶(旧音楽室)、新型コロナの影響で現在は使用を休止しているゲストハウス(旧校長住宅)もある。

 ■運営支える仲間

 「ここは、敷居はないが、素晴らしいものがある」と明るく話すのは、ボランティアスタッフの大平喜美子さん(63)。「作家さんや、ここがないと接点のない人とも関われるのは楽しみ。忙しいが、11月末に閉館すると、次の週はぽっかり穴が空いたように寂しくなる」と語る。

 スタッフは全員ボランティア。交代での施設管理、敷地内の草刈りや清掃も力を合わせて行う。

 佐藤孝美さん(77)は「作品数が多く、それぞれ褒められると、うれしくなる。裏が山で環境もいい。整備は大変だが、一生懸命やっている」と笑顔。


広い体育館に大作を展示するなど、見応えのある展示を楽しめる

 施設の建物は市から無料で借り、運営経費は会員制で捻出している。正会員の入会費は5千円、年会費も5千円。賛助会員も含め、県内外の「応援団」が運営を後押しする。

 ■理事長「熊さん」

 理事長の熊さんは久慈市生まれ。66年、多摩美術大卒。郷里で高校の美術講師を務め、現在はモダンアート協会、エコール・ド・エヌ、ないん展の会員、県芸術祭洋画部門理事。

 コロナ禍では、やむなく休館した時期も。そこで熊さんが感じたのは「ご飯を食べるのも、お金ももちろん大事だけど、人間ってそれだけでない。やっぱり芸術、音楽、それを守りたい」ということ。「麦生を1、2回見た人は必ず次、誰かを連れて来る。もっと早く来れば良かったとしゃべる」とニヤリ。

 どんな場を目指すか。大仰なビジョンがあるわけではない。「結局、日常の生活なんてパターンが決まっているから、ちょっと1~2時間来て、あぁ来て良かったなとほんわかして帰る。それだけ」と熊さん。豪快に笑いながら、その目は早くも来季の展示予定を見据えている。

 今季の残る開館日は、13、14、20、21、27、28日。各日午前10時から午後4時まで。入場無料(運営協力の募金は受け付ける)。問い合わせは電話0194―58―2429まで(土日のみ)。



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