2007年 9月 30日 (土) 

       

■ 〈自転車びより〉28 斎藤純 文庫本になった「銀輪の覇者」

     
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  10年ほど前、自転車に関するあれこれを調べていたとき、日本でも戦前までは自転車ロードレースが盛んだったことを知った。

  ロードレースは一般道を使うレースで、ヨーロッパの伝統的スポーツと言っていい。ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアなどが有名だ。日本では自転車競技というと競輪が一般的だが、競輪が誕生したのは戦後のことだ。

  戦前に行われていたロードレースのことが小説になっていたら読んでみたいと思ったが、残念ながら上梓されていなかった。誰も書いていないなら自分で書くしかない。

  まず、東京と大阪間のロードレースという大ぼらを思いついた。そのための資料集めをはじめたが、あまり残っていない。戦前の日本のロードレースのことを知る人も少ない。明治期には国民的人気を博したというのに、いったいどういうことなのだろう。

  ようやく、マイクロフィルムで保存されていた新聞記事を入手することができた。それを見て驚いた。東京・大阪間どころか、下関・東京間のロードレースが行われていたのである。

  それならば、下関・三厩間のロードレースをでっちあげてやろう。そう思って書いたのが『銀輪の覇者』だ。

  ストーリーを早川書房の広告から転載する。

  「戦争の足音が忍び寄る昭和九年、軍部の暗躍から実用自転車を使用した前代未聞の本州縦断レースが開催される。多額の賞金を狙い寄せ集めチームを結成した四人は、各々異なる思惑を秘めつつ、有力チームと死闘を繰り広げるが……本邦初の自転車ロードレース小説」

  『銀輪の覇者』は岩手日報の夕刊に連載した後、早川書房から出版され、2005年度の「このミステリーがすごい」の第5位に選出された。やはり、「本邦初の自転車ロードレース小説」であることは間違いではなかったようだ。

  意外だったのは、ギャビン・ライアルがしばしば引き合いに出されたことだ。ギャビン・ライアルは冒険小説の神様みたいな存在で、『深夜プラス1』という大傑作がある。

  このたび、『銀輪の覇者』が文庫本になった。その帯を見て驚いた。〈『深夜プラス1』に比肩する興奮〉と書いてあるのだ。何だかおそれ多いような気がする。解説で西上心太氏は〈胸が熱くなる小説とは、本書のような作品を指すのである〉と書いてくださった。

  四六版ハードカバーの単行本が2段組432ページの分厚い本だったため、文庫本は上下2巻本になった。ぼくにとっては初めての2巻本だ。

  これまで2度、映像化の話が持ち上がったが、実現していない。現在も早川書房には某映画会社から話が来ているようだが、これもまだどうなるかわからない。

  ミステリーと銘打っているが、これはスポーツ小説でもあり、風を切って疾走する自転車の醍醐味を描いたつもりだ。ページをめくるごとに風が吹き抜けていくような感覚を味わってもらうことができれば本望だ。

(盛岡市在住、作家)

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