2008年 7月19日 (土) 

       

■ 〈啄木の短歌、賢治の短歌〉44 望月善次 比喩8 悲しみと疑い

 【啄木の短歌】

  ぼんやりとした悲しみが、
  夜(よ)となれば、
  寝台(ねだい)の上にそつと来て乗る。

  〔現代語訳〕夜になると、明瞭でない悲しみが、ベッドの上にそっと来て、(私の上に)乗るのです。
 
  【賢治の短歌】
  うたがひはつめたき空のそこにすみ冬
  ちかければわれらにいたる
       〔「歌稿〔A〕」363〕

  〔現代語訳〕(一体)疑いというものは、冷たい空の底に住んでいて、冬が近くなると、私達に来るのです。
 
  〔評釈〕「比喩(ゆ)」の観点からの考察は、「指標比喩」の場合に限っても区切りをつけるのが難しいほど多くの作品がある。特に啄木短歌の比喩は「指標比喩」を基盤としていると言ってもよいほどだから、止まるところをしらないほど多い。しかし、結論的に言えば〈指標比喩の啄木〉と〈結合比喩の賢治〉と言えるから、話題を「結合比喩」に移したい。「結合比喩」は、「語の結びつき」が「通常とは異なっている」ことによって成立する比喩表現(「通常とは異なっている」については、解釈の幅も考えられ、具体例になると論者による「揺れ」が生ずる場合もある)。啄木歌で言えば「悲しみVS乗る」が該当。「悲しみ」という感情が、「乗る」という通常人間などの生物に用いられる表現によって表現されているところが「通常とは異なっている」ことになる。賢治歌では「うたがひVSすみ、いたる」。それにしても、「うたがひ」の住処「空のそこ」はいかにも賢治らしい。
(盛岡大学長)

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