2008年 8月 20日 (水) 

       

■  〈口ずさむとき〉86 伊藤幸子 「送り盆」

 仏は常に在せども 現な
  らぬぞあはれなる 人の
  音せぬ暁に ほのかに夢
  に見えたまふ
  梁塵秘抄

 
  明けても暮れても北京オリンピックの喧噪のなか、お盆の迎え火をたき、四日間仏さまをまつり、送った。ことしは14日が雨にたたられたが、夕方燈籠あげのころは晴れてよかった。昔も今も、うちの地区では新仏さんには四十八燈籠をあげる。お墓の周りに支柱を立てて、新仏さんでなくても20個ぐらいの燈籠をつるすので、お盆の期間中華やかだ。

  「なんで、どうして?」と問わない世界。暑くても、手間ひまがかかっても、親がそのまた親のしていたように、盆棚をかき、盆花を供え、赤飯、煮しめなどの供え物を作る。
  今は仏さまよりも生者の対応に忙しい。「仏は常にいませども」感ずるいとまもないほどに、夜半までテレビ音響が鳴り続ける。そんな明け方、私はふっと何かの物音に目がさめた。仏間だけに豆電球がともり、家中静まっている。ヒタヒタ、フルフル、室内の空気を震わすかすかな音が絶えたかと思うとまた続く。

  電気をつけてみて笑った。玄関に孫の置いた飼育箱で飼っていたかぶと虫が土からはい出して、ひそかにせまい箱の中で跳びはねていたのだ。ひとりで暮らしていると、さまざまな「気配」を感ずることがある。今回のように「正体見たり」ということよりも、不思議な現象の時の方がずっと多い。お盆やお彼岸にはことにもそうだが、だからといってあまりとらわれずに、ほどほどに感受していたいと思う。

  さて、送り盆には祭壇飾りなどの盆用品を片付ける。毎年盆燈籠に防虫剤を入れて仕舞うのだが、その時簡単なメモを入れてある。孫が生まれた年のお盆のことや、平成16年には「猛暑とアテネオリンピックと高校野球」と書いてある。平成18年「送り盆、高校野球を見ていたら夕方、秋篠宮妃紀子さまご出産のため早目にご入院とのニュースが流れた」とある。記憶はすぐにうすらいでゆく。「もっと泊りたい」と言って帰っていった孫のことばを書き留めて、私はことしの盆用品の箱を閉じた。


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