2008年 9月 8日 (月) 

       

■  〈自転車びより〉36 斎藤純 ロードレースブーム

 ロードレース(一般道で競われる自転車競技。ツール・ド・フランスが有名)が静かなブームを迎えている。

     
   
     
  大急ぎでお断りしておくと、首都圏や大都市ではとっくにブームになっている。試しに書店の雑誌コーナーでロードレースに特化した自転車専門誌がどれだけ出ているかご覧いただければ一目瞭然だ。そのほとんどは、ここ数年のあいだに創刊されたものだ(流行に便乗しただけで、専門誌とは言い難いものも散見されるが)。

  ロードレース関連の教本や指導書の類もたくさん出ている。私が戦前のロードレースに材をとった長編小説『銀輪の覇者』を新聞に連載していた8年前にそれらの本が出ていれば、どんなに助かったことか。あのころはロードレースの基本的な知識を得るにも苦労したものだ。

  その『銀輪の覇者』が刊行されたときは日本で最初のロードレース小説と呼ばれた。昨年、近藤史枝さんの『サクリファイス』(大藪春彦賞受賞)や川西蘭さんの『セカンド・ウィンド』が話題になり、小説の世界でもロードレース・ブームが起きつつある。間もなく公開される『シャカリキ』はベストセラーのコミックの映画化で、これもブームを加熱させることになるだろう。映画『スウィング・ガールズ』の大ヒットによって高校の吹奏楽が活況を呈したように、これらのヒットが高校生の自転車競技の興隆を後押しすることになるかもしれない。

  自転車競技部を持つ高校は少ないが、幸いなことに盛岡のお隣にある紫波総合高校には、70年の歴史を有する自転車競技部がある。夏の合宿を見学させていただいた。

  それは思っていた以上にハードな練習だった。午前中、花巻の豊沢ダムまで往復100キロに及ぶロード練習。午後は午前中と同じコースを走る部員と、トラックで練習をする部員に別れる。私は自分のロードバイクを持参していたので、午前中のロード練習についていこうと思っていたが、指導にあたっている吉野鉄平先生に止められた。
「そうとう速いですから、無理です。帰路、バテたあたりから一緒に走ってみてください」

  結局、伴走するクルマに同乗させていただいた。実際、かなり速い。私などは足手まといどころか、ほんの数キロで置いてけぼりにされていただろう。

  昼食時、1年生は食事が喉を通らないほどバテていた。先輩部員が「これだけでも食べろ」と野菜サラダを盛りつけてやって励ます。ちなみに100キロというのは、私のような「趣味の自転車乗り」が一日かけてようやく走る距離だ。それを彼らは一日に二度も!

  常々、私はツール・ド・フランスを「世界一過酷で、世界一美しいスポーツ」と喧伝してきた。紫波総合高校自転車競技部を見学して(練習のほんの一部を垣間見ただけにすぎないが)、やはり美しさと迫力を感じた。もっとも、美しいなどと言ってられるのは、こちらが単なる見物客にすぎないからだ。

  「練習はきついです」

  部員たちは異口同音にそう言う。確かにその過酷さはよくわかる。しかし、それでも部を去っていくものはいない。自転車競技の魅力はそれほど深く、強いのだろう。

  全国大会で入賞経験のあるOBが陣中見舞いに訪れていた。

  「それだけの成績を出せたというのは、才能があったんですね」

  「いえ、そんなことはありません。先生の指導のおかげです」

  私の思いこみを彼はきっぱりと否定した。

  紫波総合高校自転車競技部は、猿館貢先生(1984年のロサンゼルス・オリンピックに出場)が中心になって指導にあたっている。練習は確かにきついが、いわゆるシゴきとはまったく異なる雰囲気に私は好感を抱いた。

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