2009年 3月 14日 (土)

       

■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉101 烏泊山(からすとまりやま、389メートル)

     
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  しわがれた声で「ガァー、ガァー、ガァー」と鳴くカラス。「カラスが鳴くから帰ろう…」こんなフレーズがサヨナラの合図だったころ、学校帰りの子供は皆外で遊んでいた。そして、号令とともに一斉に散る小さな幸せをかみしめた。

  滝沢村の南、大釜と篠木のあいだにカラスのネグラのような名の山がある。その名もずばり!「カラストマリヤマ」。「烏泊山」と書く。

  東に滝沢村と盛岡市街地、西に小岩井農場と苧桶沢(おぼけざわ)、南に雫石川の河原、北に森が続く。早朝、餌場に飛び立ち、夕方帰るには格好なネグラだ。嫌われながらも人と折り合いをつけ、したたかに生きるカラスにとって、烏泊山は生活条件のそろう峠のわが家であった。

  カラスはカラスでも盛岡市の玉山区に烏峠山(からすとうげやま)、一関市が烏兎山(うどやま)・烏兎ケ森(うどがもり)となる。山形県にはカラス丸山というお茶目な名もあった。「え」と読む烏帽子山は全国各地に多数。ほんにまぁ、カラスはどこにも居るものだ。

  カラスは黒色なので、どちらかといえば不吉な前兆と思われがちだが、カラスをもじった諺(ことわざ)や意匠デザインは意外と多い。例えば、あの大きな嘴(くちばし)と黒い目玉の摩訶(まか)不思議な生き物、天狗はカラスの化身だ。1本歯の高下駄をカッとけりこみヒラリと宙返り、すばしっこい知恵者は身が軽い。「カラスの濡れ羽色」とは、つややかな黒色のこと。忍者は黒装束で闇夜にオノレを隠す。

  水浴びの所作を例えてユーモラスに笑う「カラスの行水」。これとて短気で憎めない性分を言いえて妙だ。スズメのボティーではどうも迫力に欠ける。
 
  先日わたしは、八幡館山(245メートル)を出発し、鉄塔を頼りに自分流メニューで篠木坂峠へ下ってみた。もともと地図には仁沢瀬と篠木坂峠をつなぐ古い路(みち)があるが、烏泊山は勝手気ままな天狗童子の探査が楽しめた。

  八幡館山は、もともと平安時代に築かれた山城跡で、11世紀の豪族・安倍氏が使った遺物が多数出土する歴史の台地である。ここでV字状に分かれた鉄線を右の北北西へ下って小さな高みをひとつ越す。

  鉄線が見えなくなると焦るが、わたしは東北電力の作業道「岩盛線」をパズル感覚でつなぎ長い稜線をたどった。階段を登り、反射板の横の鉄塔をくぐる。106−107の分岐は107の方向へ進むと山頂に行き着く。

  山頂から北へ10分ほどササを漕ぎ、左に折れると鉄塔の鞍部に下る。立派な岩手山が出現するので、その景色に向かって急斜面を降りれば篠木坂峠に至る。

  (版画家、盛岡市在住)

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