2009年 3月 14日 (土)

       

■ 〈啄木の短歌、賢治の短歌〉138 望月善次 他者の涙2

 【啄木の短歌】

  あをじろき頬に涙を光らせて
  死をば語りき
  若き商人(あきびと)
     〔『一握の砂』360〕

  〔現代語訳〕青白い頬に涙を光らせて、死のことを語ったのです。あの若い商人は。
 
  【賢治の短歌】

  白雲は泪とともにしめりたり手帖のけ
  いは青く流れぬ。
  〔109/「種山ケ原」、『アザリア』第三輯〕

  〔現代語訳〕(周囲を覆っている)白い雲は涙と一緒に湿っています。(目を手元の手帳に転ずると)手帖の罫も(周囲に対応するように)青く流れているのです。
 
  〔評釈〕啄木歌は、若い商人の描写で、伝記的には小樽時代に対応する。「あをじろき頬」、「涙」、「死をば語りき」、「若き商人」と並んだ語彙からすれば、(その具体像は何であるかは不明であるが、いずれにしても)人生の極限に在る「若き商人」が連想されるが、それほど深刻な読後感を与えられぬのは、一連の作品が、「追憶」というベールに覆われているためか。藤田武治がモデルとされるが、モデル問題の長短については前回触れたのでは繰り返さないことにしたい。賢治歌は、『アザリア』第三輯からのもの。「歌稿〔A〕、〔B〕」では、「種山ケ原七首」として、「白雲は露とむすびて/立ちわぶる/手帳のけいも青くながれぬ。〕〔「歌稿〔B〕」599〕の形になっている。(後年の賢治は、「泪」の主観性を避けたのであろうが。)「白雲は露とむすびて立ちわぶる」の持って回ったような表現より、抽出歌「泪」の主観的表現を良しとするのが評者の読み。
(盛岡大学長)

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