2009年 3月 29日 (日)

       

■ 〈胡堂の父からの手紙〉209 八重嶋勲 村会の過半数が味方するようになり体面も回復

 ■277半紙 明治41年6月5日付

宛 東京市麹町区飯田町四丁目三十一、
                日松館
発 岩手縣紫波郡彦部村
前畧残送金ナキ為メ定メテ困難シ居ナラン、送金困難シ(ス)ル理由ハ種々アリト雖トモ、主ナルモノハ彼ノ村會ノ馬鹿ノ為メ豫算□□ヲ停止シ、郡参事會ノ裁決ヲ迎(仰)キアル故、収入部ニ壱金モナシ、却テ借金ヲ以テ間(ニ)合セ置ク様ナルカ故、少シモ融通ナキノミナラス、他方面ノ支払ハ普通ナルヨリ原因ナリ、之レカ郡参ニ於テ村長ノ申立通裁決ニ相成、昨日村會ニ報告シテ万事解結(決)セルヲ以テ十日間計リ過クル時ハ(中略)コトガ出来ルナリ、
此間少シク不事(自)由ナリトモ敢テ心配セサル様被致候、村會ノ体面モ暗ニ野上ハ拙者ニ同意シ、佐藤倉治ヲ助役トシテ引入、過半数味方スル様ニ相成大ニ回服(復)シ、村長ニ反対セシモノハ郡ヨリ無能ト云ハレ、村民ヨリ無能感情ノ為メ村治ニ及ホシナトゝ誹(謗)セラルゝニ至リ、村長ノ所(処)置宜敷ヲ得タリナトゝアベコベノ評ヲ受ケ面白キ形状モ有之候、
当地ハ目下田植最中ナリ、家内ノ人ナキハ殆(ン)ト困難ナリ、星山ヨリ若者一人助合、常ニ母ト二人ノミナリ、耕次(郎)モ三日ニ一度、五日ニ一度帰リ、朝夕手傳ヘ(ヒ)致居候、前ニモ申述ヘ候通耕次(郎)ハ何分優等少年ニシテ大人ノ如キ挙動ハ評判能キ事故蚕業講習モ止メサシ(セ)ルモ気(ノ)毒ニ想ヘ、継續為致置候、本日単物ト牛房単衣小包郵便ニテ差立候、当月ノ末廿七日頃本村ニテ赤十字分区総會兼忠愛旗相受式執行ノ筈ニ付可相成、其前ニ帰郷セラレ度モノニ候、
帰郷ノトキハ出来得ル限リ衣類ヲ持帰ル様被致度候、
一盛岡ノ生姜町佐々木ハ北海道ニテ年報一千円ヲ受ル由、原恭ノ女ヲ妻婚約セシ由ナリ、羨敷モノニ候、大川源兵衛君ハ三十五円ノ月俸ナル由、
一畑中ノ賢治ノ妻モ梢ヤ癒リニ趣キタリト、花立橘彦吉重症ナリ、今明日中ニモ死去スルナラント、ヲシキ人ナリ、手前ナトモ折々ハ力ト頼ミタル人ナリ、佐藤庄兵衛ハ珎(弥)々重症ナリト、当夏中如何アルカ、
一何ヨリ気掛ルモノ送金ノ滞延ナリ、出来次第送金スベシ、
去月旭日青色桐葉章ト金五十円ヲ受ケタリ、未タ金員受ケサルモ不日拝受スルナラン、
本月ノ十四、五日頃ニハ桑葉モ二、三十円ハ賣却スルナラン、必ラス余計ノ心配ハセザル様被致度、去(然)リトテ過分ノ費消ハ一リ(ン)タル(リ)トモセサル様被致度候、一日も早ク面談ス(シ)タシ、金モ送クルナリ、用事旁々、早々
   六月五日       父長四郎
    野村長一殿
中野久保岩ノ澤親類中無事ナリ、
 
  【解説】「前略、残りの送金がないため、きっと困難しているだろう。送金困難している理由は種々あるといえども、主なるものは彼の村会の馬鹿のため予算□□を停止し、紫波郡参事会の裁決を仰いでいるため、収入の部に1円もない。かえって借金をして間に合わせておくさまなので、少しも融通がきかない、のみならず他方面への支払いは普通どおりにやらなければならない。この件、郡参事会では、村長の申立て通り裁決となり、昨日村会に報告して万事解決したので、10日間ばかり過ぎれば(中略)ことが出来る。

  この間少し不自由であるが、あえて心配しないようにせよ。村会の体面も暗に屋号野上は、我に同意し、佐藤倉治(屋号八竜)を助役に引き入れ、過半数味方するようになって大いに回復し、村長に反対した者は郡役所から無能といわれ、村民からも無能な感情のため村治に不利益を及ぼした等と誹謗(ひぼう)されることとなり、村長の処置がよかったなどとあべこべの評を受け、面白いかたちである。

  当地は目下田植え最中である。家に人手のないのではほとんど困難であるので、星山から若者1人を頼み、常に母と2人のみで農事にあたっている。耕次郎も、3日に1度、5日に1度帰り、朝夕手伝いしている。前にもいった通り、耕次郎は何分優等少年で大人に負けない挙動は評判がよく、蚕業講習所も止めさせるのも気の毒に思われ継続させておく。

  本日単物と牛房単衣を小包郵便で差し立てた。

  当月の末の27日頃、彦部村で赤十字分区総会兼忠愛旗相受式を執行するので、長一にはその前に帰郷してほしいものである。

  帰郷のときには出来る限りの衣類を持ち帰るようにせよ。

  一、盛岡の生姜町佐々木は北海道で年報1千円を受けるとのこと。原恭の娘を妻とする婚約をしたとのこと。うらやましいものである。大川源兵衛君は、35円の月俸とのこと。

  一、屋号畑中(長一の祖母の実家)の賢治の妻もやや癒りかけてきているとのこと。屋号花立の橘彦吉は重症であり、今明日中にも死去するであろう。惜しい人である。手前なども折々力と頼んだ人である。佐藤庄兵衛はやや重症であるという。当夏中にどうなるかである。

  一、何より気掛りなことは送金の滞延である。出来次第に送金する。

  5月に、勲七等旭日青色桐葉章と金50円を受けた。いまだ金員は受けてないがその内に拝受することであろう。

  本月の14、5日頃には桑の葉も、2、30円は売却出来るだろう。必らず余計な心配をしないようにせよ。然りとて過分の費消は1厘たりともしないようにせよ。1日も早く面談したいものである。金も送るなり。用事旁々、早々

  (追伸)屋号中野(佐比内の長一の叔父)、屋号久保(佐比内の長一の叔父)、屋号岩ノ澤(長岡の長一妹たみ江の婚家)の親類は無事である。」という内容。

  予算執行について、村会議員から疑義が出て、収入金が凍結されたのであろうか。紫波郡参事会に、村会から申し立てがあり、これに対し役場では予算執行ができないため、村長は、早く解決できるように申し立てたようである。10日間程で村長の申し立て通り解決できたようであるが、どういうことであったのかこの中からは読み取ることができない。

(県歌人クラブ副会長兼事務局長)

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