2009年 4月 10日 (金)

       

■ 〈たいせつな記憶〉重石晃子

     
   
     
  先日、東和町の万鉄五郎記念美術館で舟越健次郎氏と保武氏の2人展があり、拝見にうかがった。保武氏の若い時代の水彩画は初めて拝見したが、いかにも彫刻家のデッサンで、しっかりしたフォルムでとらえられている。めいの美奈子さんが大切に保管していたらしい。

  健次郎氏の作品は工芸とはいえ造形性の高い力のこもった作品が並んでいる。懐かしさについ涙ぐんでしまったが、このお2人にはたいへんお世話になった私だった。

  舟越健次郎先生は私の学生時代に紋様史の講義をしていただいたが、この先生には生活の基本となった東京での職場もいただいている。東海大学での10年と東京純心女子短大20年の長い年月を、健次郎先生と同じ研究室でご一緒であった。

  展示されている作品を見ながら、この小さなエスキースのデッサンをお昼のお弁当を食べながら手直ししていた健次郎先生の姿をふと思い出した。あのころ制作に夢中で時間が惜しかったに違いない。

  先生は上司でもあったし尊敬できる父のように頼れる方でもあった。本当の意味の秀才とは健次郎先生を指すかと思うほどで、意思が強く自分の意見を持ち、学長はじめ教授会での絶大な信用があった。寡黙だが学生たちへの細かな指導力もあり、立派な工芸作家であった健次郎先生。保武先生も美学概論の講義のために大学に時々おいでになり、お二人そろって談笑する姿があった。すらりと背が高く洞察する眼を持った芸術家らしい風ぼうのお2人は何と美しいご兄弟だろうと私は思った。

  偶然、健次郎先生のお住まいと私は同じ団地だったこともあり、ときどき奥様の手作りの夕食をごちそうになった。家の中は磨かれていつもちり一つない清潔さである。きれい好きは奥様だけではなく、運動のために先生はお掃除なさるのだとかうかがった。

  そしてたくさん作られた作品の数々は「残しても恥になるばかりだから」と鉄くずやに持っていってもらったとお話になったが、潔癖なことこの上なしだと私は涙が流れた。作家魂を教えてもらったと思っている。
(画家)

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