2009年 4月 14日 (火)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉3 こひひとよ、しばしな

 こひひとよ、しばしな待ちね後れ毛に
  降りたる雪を振りて落さん
 
  〔現代語訳〕恋人よ、ちょっと待ってください。あなたの後れ毛に降った雪を振り落とそうと思いますので。

  〔評釈〕「春日哀愁篇」十七首〔『アザリア』第1号〕の二首め。前回触れなかったが、改めて言うまでもなく『アザリア』は、賢治達が盛岡高等農林学校の友人12人と発行したガリ版刷りの同人誌で、同人範囲でのみ配布されたとされる。現在、底本としては、小菅家本と保阪家本とが用いられているが、原則として『新校本宮澤賢治全集』(筑摩書房)に拠りたいと思う。抽出歌に戻れば「こひひと(恋人)」については、前回の取り上げた作品同様濁点はない。また「しばしな」の「な」は疑問の部分を残している。ところで前回「こひひと(恋人)」は、嘉内らしい語彙である旨の述べたが、それは、あくまで賢治との対比で言ったのであって、恋する女性等を取り上げるのは、『アザリア』同人の中で決して珍しいことではない。一首は、お決まり的構成で、恋人への具体性に乏しい。しかし、次の三首めからは、芝居関連の作品が続くから、それへの序的作品だとすることも考えられよう。

  (盛岡大学長)

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