2009年 4月 23日 (木)

       

■ 〈お父さん絵本です〉255 岩橋淳 「仔牛の春」

     
   
     
  春のうららの陽射しの中に、一頭の仔牛。「小」でも「子」でもない、「仔」という文字に、人格というか、アイデンティティーを持たせようというかのような、作者のこだわりが感じられます。

  作者は、五味調、とでもいうべき独自の画風をもって知られた日本を代表する絵本作家ですが、作画のみならず、ストーリーもの、絵遊びもの、ことば遊びもの、リズムものなど、さまざまなタイプの作品を構成し、成功させてきました。今週の一冊も、押し、引き自在の視点で描かれたもの。

  はじめ白一色だった仔牛の背。ページをめくれば、そこには雪解けを表す黒い斑紋が現れます。画面はそのまま、ぐいっと寄ると、そこは春を待ちわびた大地の芽吹きに。小さな花が咲き、やがて青々と草が茂ります。風がそよぎ、時には嵐が過ぎ、豊かな実りがあって、また雪に覆われる…。作中の表現はありませんが、おそらく画面がぐぐんっと「引き」になれば、この仔牛も、別の仔牛の背に乗って、大地にはぐくまれているのでしょう。

  四季の恵みと大地の循環が、におい立つ風に乗って流れていく、不思議な絵本です。

  【今週の絵本】『仔牛の春』五味太郎/作、偕成社/刊、1260円(税込み)、1980年

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