2009年 4月 25日 (土)

       

■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉104 黒森山(くろもりやま、414メートル)

     
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  花巻市石鳥谷町の黒森山は黒、黒、黒で、全てが黒づくしの山である。山そのものが黒森権現様であり、集落名も黒森だ。山頂に黒森神社を祀(まつ)り、里には二つの黒森山神社というわけで、あちらもこちらも黒が基調である。

  岩手県内に黒森山と名のつく山は、ざっと数えただけでも十数山あるが、総じてスギなどの常緑樹が多く、年中しっとり落ち着いた暗緑色をおびている。

  自然が神であり畏怖の対象であったころ、黒は鬼が棲む暗闇を意味し、おどろおどろしい魔物が潜む場所だった。そして、死者のすまう冥府はまたその先で白光とともにある。

  「シュバルツ・バルト」とはドイツ語で黒い森のこと。街を黒いドイツトウヒの森で囲む。これがドイツで掲げる『都市の理論』である。わたしがかつて住んだケルン市も、100万の市民生活が巨大な黒いトウヒの森で支えられていた。

  黒森集落にため池が多いことから、この地では水争いが絶えなかったのではあるまいか。命の次に貴(とうと)い農業用水だ。水を引かなければイネは育たない。

  そもそも石鳥谷町の田んぼは葛丸川と耳取川で取水をまかなっているが、標高の高い黒森集落ではこの限りではなかった。標高180メートルの池から大小さまざまなため池を配置し、徐々に貯めて引かなければ隅々までゆきとどかない。地図からも黒森山が唯一の水源であり、水祈願のお山だったことが読みとれる。

  産直「うめなっす」のおばさんによると、黒森山大権現例大祭は毎年9月17日、午後2時ごろから笛や太鼓・鉦の御神楽(みかぐら)で始まり、酒とごちそうをふるまったあと、四角い餅を配る直会(なおらい)で最高潮に達するという。「お山の神社ではもうやらないよ、参道は廃れた」とも忠告してくれた。
 
  黒森山へは県道13号線から黒森集落へ2キロメートル進んで、左の林道入り口が起点になる。ため池と頭上の送電線をやり過ごし、左の沢が右に流れを移す750メートル地点で右手の斜面にとりつく。参道らしき踏み跡をたどり、トラバースぎみに山腹を巻いたら急斜面を直登。注意深く古い参道をたどれば、1時間30分で山頂に導かれるだろう。

  石鳥谷の黒森山は「不伐の森」である。山頂直下の老杉は、胴回り数メートルの貫ろくで、枝ぶりも並々ならぬ太さだ。驚くなかれ、この老杉、里のどこからでも目に飛びこむ。おまけに、成長盛りの若杉のように初々しい。

  広い山頂には三等三角点や黒森神社の石碑があり、朽ちた巨木が横たわる。在りし日の面影を失った黒森山神社は、忘却の彼方に消えゆくのみだった。

(版画家、盛岡市在住)

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