2009年 7月 2日 (木)

       

■ 〈清華大学集中講義報告〉4 望月善次 石川啄木の魅力

     
  受講者風景  
 
受講者風景
 
  6月19日(木)の第3回講義は、石川啄木に関するものであった。最初に講義を構想した際には、「啄木の歌が日本人の心の索引となっている」と言った井上ひさし〔『国際啄木学会東京支部会報』第9号(2001・6)pp3〜12〕を引きながら、筆者の考える10論点を掲げ、特にその第1の点である〈「望郷」を呼び込む器〉に焦点を当てた話をする予定であった。

  しかし、2日間の講義を経て、講義の後半においては、啄木文学が広く享受されている例として、中国でも人気のある谷村新司の「昴(すばる)」との対比を取り上げることにした。

  一 10論点再掲

  「10論点」については、例えば以下等においても取り上げている。

  Unita Sachidanand、望月善次共編『SWASANNIDHIYA スワサニッディア(翻訳)「我を愛する歌」〔『一握の砂』〕』、『DHOOAN デゥアン(翻訳)「煙 一 二」〔『一握の砂』〕』(Anamika Pubulishers & Distributors,2007,2008)。

  今回は、その10論点と例として引いた啄木短歌のみを再掲したい。

  1.望郷:それは近代日本に必然の構造でもあった。
   ふるさとの山に向かひて/言ふことなし/ふることの山はありがたきかな
  〔『一握の砂』252〕

  2.貧困:それもまた日本が克服しなければならない課題であった。
   はたらけど/はたらけど猶わが生活楽にならざり/ぢつと手を見る
  〔『一握の砂』101〕

  3.病気:結核を中心とした病気との戦いも近代日本が越えねばならぬものであった。
   呼吸すれば、/胸の中にて鳴る音あり。/凩よりもさびしきその音!

  4.母親への親愛:母性的文化もまた日本文化の特徴である。
   たはむれに母を背負ひて/そのあまり軽きに泣きて/三歩あゆまず
  〔『一握の砂』14〕

  5.恵まれない人々の心
   友がみなわれよりえらく見ゆる日よ/花を買ひ来て/妻としたしむ
  〔『一握の砂』128〕

  6.夫婦の発見とその苦闘
   子を負ひて/雪の吹き入る停車場に/われ見送りし妻の眉かな
  〔『一握の砂』361〕

  7.国家という構造:「権力」の意味するものへの洞察
   一隊の兵を見送りて/ かなしかり/何ぞ彼等のうれひ無げなる
  〔『一握の砂』114〕

   8.瞬間性
   手套を脱ぐ手ふと休む/何やらむ/こころかすめし思ひ出のあり
  〔『一握の砂』437〕

   9.只事性という発見
   ある日のこと/室の障子をはりかへぬ/その日はそれにて心なごみき

   10.編集性
   東海の小島の磯の白砂 に/われ泣きぬれて/蟹 とたはむる
  〔『一握の砂』1〕

  二 谷村新司の「昴」との対比

     
  宿泊所の甲所(Guest House)  
 
宿泊所の甲所(Guest House)
 
  講義の後半は、谷村新司の「昴」との対比を取り上げた。

  『悲しき玩具』の冒頭の2首〔「眼閉づれど/心にうかぶ何もなし。/□さびしくもまた眼をあけるかな。」(2)、「呼吸(いき)すれば、/胸の中(うち)にて鳴る音あり。/□凩(こがらし)よりもさびしきその音!」が、「昴」(谷村新司)冒頭の「目を閉じて何も見えず/哀しくて目を開ければ/荒野に向かう道より/他に見えるものはなし」やそれに続く「呼吸(いき)をすれば胸の中/凩(こがらし)は吠き続ける」とどんなに似ているかは、啄木研究においては、既に常識でさえあるから繰り返さない。
 
  以下の3つを加えるに止めたい。

  1.当日は、受講の大学院生たちが、中国における谷村新司の映像をインターネットを用いて見せてくれた。

  2.中国における「昴」の訳は「星」であった。

  3.「独創」の概念は、現代人が考えるほど単純ではない。筆者としては、シェイクスピアを引き「ロミオとジュリエット」の例などをその具体例とした。

  「昴」を参加者で歌ったわけであるが、「先生一人でも、お願いしたい。」を受けて、日本でもあまりしたことのない面前で歌うということもしてしまったから、勢いの赴くところは恐ろしいとのみ述べておこう。

  貴重な機会を与えてくださった王中忱先生をはじめとする清華大学の皆様や、学内多忙の時期に海外出張を許してくれた盛岡大学の久慈理事長以下の関係各位に改めて感謝したい。
(盛岡大学学長、終わり)

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