2009年 7月 7日 (火)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉35 望月善次 今更に静かに

 今更に静かに木の葉落ちるとて、何で
  なけ(げ)かん、とき色のゆふべ
 
  〔現代語訳〕静かに木の葉が落ちるからと言って、今さら、どうして嘆くことがありましょうか。この「とき色」の夕べに。

  〔評釈〕「大空がまったく晴れておそろしや」三十二首〔『アザリア』第二輯(盛岡高等農林学校アザリア会、大正六年七月十八日)〕の八首目。第三句の「なけかん」は、「なげかん」の濁点が脱落したもの。先ず、冒頭から続けて七首、出出しを「大空」で続けて来たものを一旦離れて、「今更に」と始めたところが目に付く。「今更に」は、意味的には「何でなけ(げ)かん」に続くものであるが、冒頭に置いたのは、五音という初句の条件に導かれたもの。また、この際の「今更に」は、「今更」の意味であるが、「に」を加えて五音としているのも、初句五音の条件に引っ張られたもの。静かに木の葉の落ちることにも涙する話者の思いは、話者の繊細な面を示すと共に、落ち葉は、一つの契機に過ぎず、涙せずにはいられない話者の心情があることをも暗示する。「とき」は、ご存知の「トキ(鴇・朱鷺)」のこと。「淡紅色」を表わす「とき色」は、風切羽と尾羽の色によるものだと言う。
  (盛岡大学長)

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