2009年 7月 8日 (水)

       

■ 〈都市の鼓動〜リレーコラム〉49 鷹觜紅子 自分の山の木で家を建てるということ

     
  森林施業の体験会も開かれている  
 
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  仙台平野を通り過ぎて、トンネルを抜けると車窓の両側に山々が連なる。

  それを見て「ああ、岩手に帰ってきた」と感じる。人々の心を和ませてくれる緑に覆われた山々。県土の約8割が森林という岩手県。果たして、いつまでこの素晴らしい景観が、保たれるのだろうかと思う。

  前回は、自分の家から見える山の木で、家を建てた時の事を書かせてもらったが、今回は、自分の山の木で家を建てた時の事を書かせてもらう。

  終戦後、山を所有する多くの人達が、赤松や唐松の苗木を植林した。

  植林後、50〜60年経った木は建築用材として、充分すぎるほどの伐期齢に達している。

  「おじいさんが植えた木を大事に使ってください」という建主さんの依頼で始めたこの仕事、私にとって建主さんの山の木を使って家を建てるのは、2回目である。34年間この仕事をしてきて、まだ2回しかない。(外国産の木材がこれほど利用される前は自分の山の木や近くの山の木を使って家は建てられていた。確かに欲しいものが欲しい時にすぐに手に入る外国産の木材のほうが、家を造る人にとっては便利かも知れないが…)
 
  私は、この2つの仕事を通して切実に感じた事がある。

  自分の山の木を使って家を建てるという事は、工事費に占める木材費の比率が低くなると思っている人が多いと思う。しかし、実際はそうではない。むしろ高くなる傾向がある。それは自分の山の木は主に構造材(土台・柱・梁等)と仕上げ材(床・壁等の板材)として使われる。自分の山の木なのである程度、長さや断面も指定できる。長いものや太いものを使いたい時は事前に話をすればその様に伐採してくれる。

  構造材が立派になれば購入しなければならない造作材や建具材、そして仕上げ材も、おのずとそれに見合ったものになってくる。結果、相乗して全体の木材費が高くなる傾向がある。

  そして、何よりも自分の山の木でもただではない。

  まず伐採費が1,440円/立方b、切った木を運搬する費用が1800円/立方b、そしてそれを運搬する費用が1800円/立方b、製材費が1万6500円/立方b、乾燥費が1万円/立方b、表面処理費が7000円/立方b、そして諸経費・造林負担金等が20数%と、自分の山の木を使っても約4〜5万円/立方b程の費用がかかる。

  しかし、この金額は決して高いものではない。平均の直径が33a、長さが9bの木を1本切る手間が1440円、それを山から下ろす費用が1800円、そしてそれを運ぶ費用が1800円…ということで、上記金額は1本の木を山から搬出して製品化するまでの費用である。アルバイトの時給を考えれば、いかに山を守る人たちの賃金が低いか、ということに気付く。

  そして、山の持ち主も伐採した後に植林もしなければならない。現在、苗木に対する補助金はあるということであるが、これまで述べた工程についての補助金はない。そうなれば、当然、山を所有している人も、安価な木材を用いて家を建ててしまいたくなる。そうなれば、ますます放置森林が増加し、山の活性化を計って、環境に還元するどころか、環境にも景観にも悪影響を及ぼす。岩手の良さを維持し続けるためにも、今、官・民一体となってこの重要な課題に取り組まなければならない時が既に来ていると私は思う。
(設計事務所代表)

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