2009年 7月 11日 (土)

       

■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉109 経塚山(きょうづかやま、1373メートル)

     
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  北上市と奥州市が接する西方に、豪胆な稜線を描く経塚山はある。その名前からして山全体が「経を埋めたる塚」だ。仏の説いた教えを書き取ったものが経文。塚はその経を納めた所で、慈覚大師が埋めたとされる。すぐとなりにインドの古名をさす天竺山があるなど、峰々に壮大な神話性を託している。

  20歳のころの私は、仏像美術のルーツを探りあてたい一心から、パキスタン北西部の都市を訪ね歩いた。紀元前1世紀から5世紀ころまで栄えた古代都市ガンダーラへの旅である。

  来る日も来る日もバリバリ突っ走るバスに揺られ、ケケケッと鳴くヤモリの安宿を克服しなければならない。が、彫刻を追う日々は、見るもの触れるものが刺激的、かつ驚きの連続であった。

  この乾いた大地で、私は2体の像に行きつく。ほおはこけ、目が落ち窪む、あばら骨を浮きだす表皮と凹んだ腹部、ウエーブの頭髪……これぞ仏教美術の原点だ。ショック!今までのブッダとはすべてがちがう。

  等身大の座像は「苦行で得るものは何もない」と、命のギリギリで諭している。ブッダガヤの菩提樹のもとで沈思瞑想についたのはその後のこと。真理を悟って「めざめた人」となり、ブッダの教えは経典となった。

  前3世紀以降に広がり始めた仏教は、アレキサンダー大王の遠征にともなうヘレニズム文化と激しくせめぎ合い、ガンダーラ様式の仏教美術へと変遷していく。髪形にみられるウエーブは、ギリシャ彫刻のなごりであろう。
 
  経塚山の登り方は2通りある。日帰りできる夏油温泉からは、旅館の裏の林道を天狗岩へ誘い込まれないよう2段あがって70分進む。夏油川にかかる赤い吊り橋をわたり、左手の崖にとりつく。小沢を越え、ブナの山肌を巻き、樹林帯を歩く。風穴のある「お坪の松」では大休止しよう。

  低木帯を抜けると尾根路となり、吹く風もすがすがしい。山頂までは一頭足だ。往路4時間、復路3時間かかる。天竺山に寄るならば、金明水の手前1230b地点でブッシュに突入し、古い路を手探りしながら山頂を目指す。

  経塚山から六沢山を経て焼石岳へ縦走すれば1泊2日のロングランである。金明水、銀明水、どちらかの避難小屋で自炊することになろう。

  「この、バチアタリ」は、仏さまの一喝である。説教でも激怒でもない。問答無用で悪事を戒める。経塚山は、ガンダーラのブッダさながらに山の極意を授ける。|苦行者のように歩いてはいけない。さぁ、登山は安全に、楽しく!

(版画家、盛岡市在住)

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