2009年 7月 14日 (火)

       

■ 〈イタリアンチロルの昼下がり〉74 及川彩子 アルプスの羊飼い

     
   
     
  私の住む北イタリアのアジアゴ高原は標高千b。イタリアンチロルの裾野で、わが家から郊外へ車で2、30分も走ると、緑真っ盛りの山合いです。

  中腹の緩やかなカーブの道を行くと、草を食む数百頭の羊や山羊の群れに出会います。道に飛び出す羊を、犬が上手に誘導、その犬を指揮するのがアルプスの羊飼いたち〔写真〕です。

  冬から春、平地で過ごした羊が山に移動し始めるのは初夏。暑さに弱く、牛より身軽な羊は、数週間かけ、野宿しながら、アジアゴよりさらに数百bも高い高原へと大旅行するのです。

  アルプス地方の羊は、羊毛だけでなく、乳は「ペコリーノ」と呼ばれるチーズの原料です。古代ローマ人にも好まれたというペコリーノは、牛乳のチーズに比べ、熟成時にたっぷり塩を使うのが特徴で、温度変化に強く、長旅の食料として昔からの貴重品です。

  羊の肉は牛肉よりずっと柔らかですが、高価なのでイタリア人はあまり食べません。でも、春の復活祭の食卓だけは特別。宗教的意味もあり、その日だけは、小羊の煮込みやローストを味わうのです。

  羊の肉をイタリア語でアニェロ、ラテン語ではアグヌスと言います。よく聞く女の子の名前「アグネス」は「小羊」の意味です。

  ヨハネの黙示録に「見よ、世の罪を取り除く神の小羊だ」と書かれているように、昔からキリスト教では、小羊はイエス・キリストのシンボルとして親しまれてきました。

  初期キリスト教の時代から、牧草地に立つ羊の図は、「地上の教会を潤すキリスト愛」を意味し、「よき羊飼い」はイエスのことです。

  これに対して山羊は「地獄へ落ちる者」のシンボルにされてきました。信ずる者は羊、不信の者は山羊。それらが一緒になって戯れるのどかな高原。両者を大切に見守る「よき羊飼い」のおじさんはこの夏も健在でした。



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