2009年 7月 14日 (火)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉38 望月善次 草むらのくさは

 草むらのくさは黙って空に向く、互い
  にちがふ心を持ちて、
 
  〔現代語訳〕草むらの草は、黙って空に向いています。(その様子は、私には)草草が互いに違う心をもって(そうしているように思われるのです。)

  〔評釈〕「大空がまったく晴れておそろしや」三十二首〔『アザリア』第二輯(盛岡高等農林学校アザリア会、大正六年七月十八日)〕の十一首目。大空に向かっていた話者の視線は、地上の草草に向う。その草草を先ず、擬人的に把握する。「くさは黙って空に向く」は、「くさVS黙って空に向く」の結合比喩(ひゆ)で、所謂擬人法。擬人法は、作者の対象(この場合は草草)に対する親愛の気持ち、またある種の余裕を示す。親愛と余裕とは、対象の草草に対して感情移入をもたらす。その具体が、第四句から結句にかけての「互いにちがふ心を持ちて」である。もちろん、客観的に言えば、この時の草がどうした感情を持っていたかは(そもそも草が感情を持てるのかを含めて)断定できないことである。その不可能を押し切って断定するところに表現の面白さが発生する。「秀歌」という類には入らぬ作品ではあるが、この時期の嘉内がこの様な技巧を使いこなせたことは、やはり、見逃せない一事。
(盛岡大学長)



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