2009年 7月 26日 (日)

       

■ 〈早池峰の12ヶ月〉3 丸山暁 ここは妖精たちが暮らす場所

     
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  わが家には、石を積み上げて土で固めた釜戸がある。高さ6、70aぐらいですそ野が3b、幅1b、深さ70aぐらいの噴火口を持つカルデラのような形をしている。

  この釜戸はこの地に来た17年前、畑から出た石と土手に掘った半地下の室から出た土を固めて作ったものである。近所の方々がのぞきに来て、「陶芸をやるのか」と尋ねられたが、そうではない。ごみを焼くための釜戸である。

  当時、今もそうかもしれないが、都会から田舎への移住者には陶芸をやるものがかなりいた。ちなみに数年前からは、環境への配慮から、釜戸ではバラや庭木の剪(せん)定枝や刈り込んだハーブを焼いている。

  この時期、釜戸の周囲は花盛り、濃いピンクの花を咲かせるラベンダータイム、淡いピンクのレモンタイム、白っぽいクリーピングタイムなどの花が咲き乱れ、釜戸がピンクの花園になっている。

  ハーブ通の方はご存知だろうが、タイムの花は、直径1_程度の小さな花弁の花が幾重にもボンボン状に花開く。草木の花の中でもタイムの花は最もかれんで、僕が最も好きな花の一つである。

  その花園を目指して、たくさんのミツバチがやってくる。みなしごハッチの友達のクマンバチやチョウチョもやってくる。数日前、そんな情景を見つめていたら、「この小さな小さな花園には妖精たちが暮らしている、この花園には妖精が住んでいてもおかしくない」と、確信に近い思いが浮かんできた。

  妖精は、大体北国に暮らしているようだ。妖精物語のバイブル、イエイツの「隊を組んで歩く妖精たち」はアイルランドの話である。妖精と言うには少々デブッチョのムーミンだが、ムーミン谷はフィンランドの森にあるという。

  たしか、アイヌの物語だったと記憶しているが、東北にはコロボックルという小人が住んでいたという。隣町の遠野には座敷童が暮らしている。ちなみに、遠野物語の話の多くは稗貫地方の民話なので、いつか僕の家にも座敷童が住み着くかもしれない。

  いやいや妖精が暮らすのは北国だけではない。沖縄にはいたずらっ子のキジムナーが、アフリカや中南米にはトリックスター(人間と自然の間を行き来する悪戯もの)がいると、話を広げれば全国、世界中で妖精・妖怪自慢が始まるかも知れない。それでも、小さなかわいい妖精は北国に多く暮らすのではないか。

  朝、ブルーベリーを採りにいくと、傍の笹竹の森がカサっと揺れて静まりかえる。前日、採ろうと思っていた熟した実がない。ひょっとしたら、妖精に先を越されたのかもしれない。あなたの花園も、そっと耳を澄ませ心の目でのぞいてみてください。きっとそこにも。

(丸山暁建築・空間工房、大迫・外川目在住)

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