2009年 7月 27日 (月)

       

■ 〈雑穀〜在来種を引き継ぐ〉1 大谷洋樹 新品種の素材

     
  もじゃっぺの丈は新品種のヒエよりも長い(県北農業研究所)  
 
もじゃっぺの丈は新品種のヒエよりも長い
(県北農業研究所)
 
  長い歴史をもつ岩手の雑穀。風土に根ざし、長く栽培されてきた在来種・系統が残る。しかし、後継者難で地域固有の在来種はいよいよ存続が危い。地域の作物には無限の可能性を秘めた素材が眠る。在来種を引き継ぎ、掘り起こすことは品種改良の有力な素材を守るだけでなく、土地の固有の風土と文化をまるごと引き継ぐことだ。それぞれの立場で在来種に着目し愛着を注いだ人たちがいる。(大谷洋樹=地域ルポライター)

  県農業研究センター県北農業研究所は新たな優良系統を見つけるため2001年ごろ素材となる在来系統を探していた。丈が短いなどの栽培特性だけでなく、新しく加わったのは食味の観点。出合ったのは北上山地の山間にある岩泉町安家で細々と栽培されていた系統だ。

  もじゃっぺと今一般に呼ばれている。種を提供したのは岩泉町安家の小野寺長十郎さん。山の神さまにお供えするしとぎをつくるのに栽培したという。おいしいヒエと地域ではみられていた。

  しかし従来の系統選別は試験栽培により穂の出る時期、茎の長さなど特性を調べることが中心だった。当時担当していた県職員の長谷川聡さんは「おいしいのだろうとは思っていたが、最初は食味にそれほど目が向いていなかった」という。食味に着目した新たな発見が生まれたのは、長谷川さんが「市場性のある品種の特性を調べること」をテーマにつくば市の研究機関に派遣されたのがきっかけとなった。

  食味にかかわる内部品質を試験する機械があった。それだけでなく国内外の品種に詳しい勝田真澄氏の指導を得て広い視野で取り組めたのも幸いだった。

  長谷川さんの研究の独自性はアミロースに着目した点。コメでは低アミロースだと冷めても硬くなりにくいというのは常識でもあったが、ヒエに同様の視点はなかった。

  精製したヒエのでんぷんのヨード反応試験をして驚いた。うるちは青色となるが、もじゃっぺは白っぽかった。そこででんぷんの糊化特性をみるとでんぷんが老化せず、冷めても硬くなりにくいことがわかった。アミロースの比率は12〜13%で従来の系統の半分程度。おいしいという感覚だけでなく、試験データにはっきりと違いが出た。

  もじゃっぺは県の半もちのヒエ新品種開発の素材になった。もじゃっぺを紹介したのが岩泉町の酪農家の八重樫貴治さんだった。伝統的な作物に関心をもつ八重樫さんは雑穀の勉強会に参加した際に普及所の職員と一緒に持ち込んだという。

  八重樫さんは長谷川さんを高く評価する。ふつうなら系統選びの視点は収量などが中心だが、長谷川さんは「色などふつうの研究者では見落としがちな点に着目し、なによりも名もない在来系統に目を向けた」からだ。

  新しい特徴をもつことが分かったもじゃっぺは県の優良系統に選定され、栽培が奨励されてきた。新品種の誕生後も、その存在意義は消えることはない。新品種誕生の陰には在来系統を引き継いできた人たちがあり、着目し、掘り起こした人があった。

  「今は生産量優先の時代だが、食味の時代が来る」と長谷川さんは予測する。できれば地元の人が価値に気づき、もじゃっぺを発信してほしいと願っている。「素晴らしい素材が地域に残っていた」と長谷川さんは改めて思う。

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  【「もちひえ」の誕生】県北農業研究所は昨年3つのヒエの新品種を開発した。半もち性で、冷めてもパサパサしない。丈が短く機械での収穫などにもなじむ。素材となったのがもじゃっぺ。人為的な突然変異により育成した品種だ。新品種は雑穀から県の奨励品種が消えた昭和45年以来の奨励品種となった。国へ品種登録を申請中。全国的にも雑穀の品種改良はほとんど進んでおらず、県はヒエ、アワ、キビの優良系統を選定したが、いずれも在来種を選別したもの。

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