2009年 7月 29日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉135 伊藤幸子 「夏祭り」

 山国の雷雨にはてし祭かな
松崎鉄之介
 
  夏祭りがたけなわだ。わたしはお祭り大好き。うちの地区では7月15日、大更の八坂神社例大祭、23日は平舘の地蔵尊のお祭りだった。八坂さんのお祭りは「きうり天皇」と呼ばれ、昔から雨が降るといわれている。子供心に夏だから「きうり」かと思っていたが、古くはやさか(いっぱい)のまが玉の緒を輪にした形がきうりの切り口に似ているからだとか、諸説あるようだ。ともあれ、今年も雨だった。

  わたしはたまたま買い物に出ていて、この祭り行列に出くわした。ビニールをすっぽりかぶった山車が一台、ヤーレヤーレの声もにぎやかに、各商店前では音頭あげの声が響く、手を引く幼児もなく、話し相手もないのは寂しいものだと思いつつ、60年も前の父母の話が思い出された。

  この子は、せっかく新調の浴衣を着せて連れて行ったのに、山車の人形を見たとたん、火が付いたように泣き、見物どころでなかったらしい。雨のお祭りの「幸子の大泣き」は毎年周囲の大人たちの笑い草だったが、父が逝き、母が逝き、さんざんわがままをした幼児期をもう語ってくれる人もいなくなった。

  平舘の地蔵さんのお祭りは楽しかった。今年も大泉院の境内まで、赤い提灯が揺れ、一本町を彩った。ここは子育て地蔵さんとして知られ、わたしの男子同級生は幼児のころ、お祭りに行きたいと言ったらおふくろさんに、「あそごは男が行くどごでねえんだ。腹おっきいおなごだづが行って拝むどごだ」と諭されて、おさい銭をもらえなかったと笑う。ちなみに女子同級生は結婚後、安産祈願に行ったという。

  先日は松尾鉱山のお祭りの話で盛り上がった。昭和27〜29年ごろ、私は山神さんのお祭りでエノケンや照菊を見た。と、言ったら、それまで花火や演芸会のにぎやかさを盛んに語っていた人が、「照菊って、ダレ?」と聞く。その表情があまりにも無邪気で、還暦すぎとは思えず、あたかも「ボクだけ見ないで損した」と訴える目がおかしかった。

  しかし人の記憶とはあやふやなもの。わたしはその友に、しきりに日本髪のあでやかな照菊の舞台を再現しようとして、何か果てしない歳月の向こうから発せられる既視感に、じわじわととらえられてゆくのを禁じえなかった。

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