2009年 9月 9日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉141 伊藤幸子 「壊れない国」

 小さい秋小さい秋と重ね きて壊れさうでも壊れない国
                              生野玲子
 
  日本列島を選挙の嵐が吹きまくった。なりふりかまわず「刺客」だとか「ぶっ壊す」などと叫んでいた声もやみ、チェンジ内閣が発足しようとしている。昭和3年生れの作者の初めての歌集「ポシェット」には「日々夜ごと総理降ろせの合唱は『キシヲタオセ』の声もありしが」の一首もあり、名前だけ替えれば平成の現在そのものともとれて興味深い。

  生野玲子さん、全く存じ上げない方である。6月下旬、すてきな湖水色の布貼り美装本が届き、集名「ポシェット」。えっ、何がつまっているのかな、とわくわくしてページを繰ってみたら明るくおしゃれで、弾力性のある作品がぎっしり盛られ、どこから読んでも面白い。

  「今流行るポシェット既に青森の遺跡にもあり歩みのほどは」「生き死にの食料入れしリュック今ファッションなれば軽し片掛け」平成7年の阪神淡路大震災のときは大都神戸にリュックスタイルがあふれた。そしてそれは作者にとって戦中戦後の食料運搬の貴重な道具でもあったことだろう。苦を苦と言わず、自らの少女時代をファッション性に回想する。

  氏の略歴がまた変化に富んでおられる。両親は鳥取の出で若くして北海道に渡り、作者も大勢の兄姉と岩見沢に過ごす。成人後、長姉を頼り京都舞鶴に移り住み、阪急百貨店に勤めデザインを学び大阪万博のころ結婚。お相手は社会人を含め4人もお子のある自営業の方。時代とはいえその勇気に感じ入る。今では一族20人も集まる団欒(だんらん)のようすが伺われる。

  「人間はいつまで同じことを言ふ半世紀経て八月の蝉」「中秋の月下とび交ふEメール言の葉はらり誰の懐に」「南座に『身替座禅』可笑しみて世に他人事の浮気こそ楽し」芝居大好きのお人柄がいたるところにしのばれる。

  そして「夕映に姉妹と見て来し双子ビル紐育の名残りは瞬時に消され」あのおぞましい9・11テロから8年もたった。「否応もなくここに生れここに生くテロら入るな地震起こるな」真にそう思う。一世紀近くも「壊れさうな国」を見てきた目に、小さな秋の平安の祈り。歌集拝誦の御礼に、秋の京都路を訪ねてみたくなった。 

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