2009年 9月 12日 (土)

       

■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉113 白見山(しろみやま 1173メートル)

     
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  「白望(しろみ)の山に行きて泊れば、深夜にあたりの薄明るくなることあり。秋のころ、茸採りに行き山中に宿する者、よく此事に逢う。」遠野物語の第33話・第34話でいう「この事」とは、白見山のミステリー現象を指している。

  どこからともなく女の叫び声が聞こえ…とか。桐の花が咲き満ちた所に近づくことができない。ある者は、見つけた金の樋と金の杓は重くて持てず、付けた印をたよりに取りにいったが、2度と行き着けなかった、とか。

  琴畑川の浅瀬に椀が流れてきた…など、白見山は、人のまことしやかな営みが大きく暗示されている。いわゆるマヨイガ(迷い家)の民話である。

  深沢七郎の書いた「楢山節考」と同じ姥捨山の因習は、日本各所にあったというが、老いたおりんを山に置き去りにする辰平の葛藤はいかばかりであっただろう。母は母で、もう生きて里へは帰れない。息子のうしろ姿にただ黙して合掌するのみだった。

  もし、白見山に終(つい)の棲家(すみか)が存在したとすれば、せめて仙境であってほしい、夢の桃源郷であってほしいと願う。「白望山」とも書く白見山は、遠野市と大槌町と川井村にまたがる深山である。
 
  なにやらシンミリしてしまった。さあ、気を取りなおして白見山へご案内するとしよう。登り方は北と南の2通りあり、どちらも近年に刈払いされた。だが、妖怪が出そうで心細い。ひょっとして、ひょっとするかもしれないので、くれぐれも地図と磁石で確かめながら歩いてほしい。

  川井と大槌の境、土坂峠から長者森を経由して登る方法がその一つ。1時間で長者森に着く。尾根のけもの道をたよりに新田牧場の上部まで南下すると、30分で牧草地におどり出る。振り向けば、なんと、北西の空に早池峰山と薬師岳が格調高くそびえているではないか。「描けよ!」と、早池峰が誘う。私は思いっきりペンを走らせた。

  牧柵の切れたところから再び森に入り、急斜面をあがって1時間ほど尾根を進むと、「…見真大神」「南無阿弥陀仏」と読める石碑がある。ここから10分たらずで山頂だ。1等三角点の頂ではあるが見晴らしは悪い。往路3時間かかる。

  二つ目は樺坂峠から登る方法である。遠野市の琴畑川沿いに琴畑林道を直進。樺坂峠で「金糞平の山桜」方面へ左折したら、1・3`b地点で再び左へ。300b先に駐車する。山岳界の泰斗、今西錦司氏の登頂を機に名づけた「今錦参道」の看板にしたがい進めばよい。こちらは1時間ちょっとで山頂に立つ。
(版画家、盛岡市在住)

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