2009年 9月 15日 (火)

       

■ 〈風のささやき〉9 重石晃子 画家モネの食卓

     
   
     
  先日「モネの食卓」と題された本に出会った。この本は、画家クロード・モネがノートに記した家庭料理のレシピで作られ、夢のあるページに綴(つづ)られていた。

  一般的にいって、芸術家は食べ物に対して、とてもデリケートな感性を持っているとわたしは思っていたが、モネの本に出合って一つの証明を得たように思った。

  それとは別に、大昔の話になったが、若いころに3年ほどフランスに留学したわたしには、この家庭料理のレシピや写真が、とても懐かしかった。

  クルトンがたくさん入ったニンニクスープ、パセリの載った緑のムール貝、トマトソースのオムレツ、チーズの名前など、一つ一つ思い出を伴って立ち上がってくる。下宿屋のマダムのキッチンは新式で、モネのそれとは格が違ったが、鉄のオーブンが備えられて、活躍していた。わたしはオムレツや、スープの作り方を教えてもらい、フランス人家庭の味を知ることになった。

  日本ではフランス料理は高級な印象があるが、一般の人々の食生活はとても質素で、食材にむだがない。寒い冬の間はストーブの上にいつもお鍋が載っていて、鍋の中にはいろいろな野菜が大きく切られて、投げ込まれている。ポトフといわれているスープである。

  肉や魚の料理には、たいていニンニクが使われるが、キッチンの隅に、白いニンニクが網に入れられてつるしてある。なぜか匂わないのが不思議であった。最も、年に一度はニンニク市があり、人々は山のようにニンニクを買い、担いで帰る。湿気が少ないせいか、日本から持っていった漆器は、みなパリパリにはがれて驚いたことがあったから、ニンニクも家の中につるせたのかもしれない。

  モネの庭を見せてくれたのは、サンドニ・ル・フエルモンの民宿のおばさんであった。ジベルニーの畑の中に、秘かな桃源郷のように、モネのアトリエがある。彼のキッチンは、紺色の花のタイルで美しく飾られてあった。


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