2009年 9月 19日 (土)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉64 望月善次 ビールをあふりつ皆が

 ビールあふりつ皆が騒げる其隙に そ
  と渡されしかむざしならずや
 
  〔現代語訳〕ビールを呷(あお)りながら、皆が騒いでいるその隙に、そっと渡された簪なのですよ、これは。

  〔評釈〕「空谷(くうこく/こうこく)の跫音(きょうおん/あしおと)〜かむざし〜」(署名 △△△生)六首〔『アザリア』第三輯(盛岡高農アザリア会、大正六年十月十七日)〕の冒頭歌で、「△△△生」は嘉内のこと。「△△△生」と匿名性を強めたのは、一連六首が色街の女性らしき女性との交流を描いたものだからであろうか。「空谷」、「跫音」は、現在からは二つの訓みが考えられよう。「あふる(あおる、呷る)」は、「酒などを勢いよく飲む」意で、抽出歌には用いられていないが、相当する漢字「呷」は、「口+甲(よろいやあぶとをかぶせる)」の会意兼形成文字で、「上からかぶせるようにがぶ飲みする」の意。一連六首の冒頭作品であるから、状況の説明から入るか、ベートーヴェンの「運命」のように一挙に主題を示すかであるが、ここでは前者の状況の説明から入ったことになる。結句「かむざしならずや」の「ならずや」には、状況説明を越えようとする話者の思いがあると読んだ。
  (盛岡大学学長)


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