先週ご紹介した『おだんごぱん』は、ロシア民話。「民話」ですから「原作者不詳」は当然のことですが、場所を異にしてバリエーションが数多く存在するという事例も見られます。イギリス民話で、おばあさんが焼いたパンが遁走する『しょうがパンぼうや』、ノルウェー民話で、これは牛乳をたっぷり使って焼いた『ころころパンケーキ』…。「どれが元祖」などという詮索は、無意味。国境どころか海まで隔てて永く語り継がれた物語が存在する、この事実に感嘆するばかりです。
今週のご紹介、お国はアメリカ。ストーリーテラーとして活躍したルース・ソーヤー(1880〜1970、アイルランドで民話の取材に取り組んだことがある)による再話です。
舞台はアメリカの農家に設けられ、おじいさん、おばあさん、そして雇われた(牧童?)ジョニー少年と、動物たちが登場します。「パンが逃げる」「登場者が後追いで増えていく」のは同じですが、それなりに手広く経営していた農園が傾いてしまうなど、ドラマティックな展開が特徴的。結末も「サドンデス」ではありません。
再話者の義理の息子でもあるアメリカ絵本界の重鎮、ロバート・マックロスキー(1914〜2003)による作画も雰囲気たっぷり。このおおらかさ、まさしく「アメリカ」絵本です。
【今週の絵本】『ジョニーのかたやきパン』R・ソーヤー/文、R・マックロスキー/絵、こみやゆう/訳、岩波書店/刊、1680円(税込み)(1953年)
|