2009年 9月 26日 (土)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉67 望月善次 よごれせし実習服の

 よごれせし実習服のぽけっとに汝が
  かむざしの光りてあるらむ
 
  〔現代語訳〕汚れた実習服のポケットに、お前の簪(かんざし)は光っているだろう。

  〔評釈〕「空谷の跫音(〜かむざし〜)」(署名 △△△生)六首〔『アザリア』第三輯(盛岡高農アザリア会、大正六年十月十七日)〕の四首目。話者と簪を巡る状況としては、前回も述べたように「(友人たちと酒を飲みに行ったところ)好意を持つ女性から、みんなからは、こっそり簪をもらい、その喜びのままに簪を実習服にまで入れて持ち歩いたのだが、その大切な簪を実習服のポケットに忘れてきてしまう。しかも、その実習服は、実習以外のところに保管するのが通例で、少なくとも次の実習である二日間は其処に近づくことはできない。」を想定している。ところで「かむざし(簪)」は、言うまでもなく「かみさし(髪挿)」の音便形。また、「簪」そのものは、冠の巾子(こじ)に挿した挿頭(かざし)などに由来するが、特に江戸時代から発達した女性の髪飾り。女性の象徴でもあり、簪愛惜の心は、当然その簪の所有者である女性への思い。象徴性明らかなる故に、また危うさも少なからず。

  (盛岡大学学長)

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