2009年 9月 29日 (火)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉68 望月善次 ぽけっとの暗がりに

 ぽけっとの暗がりにかむざしはあり
  実習服かもつられてあるらむ
 
  〔現代語訳〕(実習服の)ポケットの暗がりに、(私が忘れてしまった大切な)簪はあるのです。その実習服は、(そんな私の気持ちも知らないで、保管場所に)吊されてあるのでしょうね。

  〔評釈〕「空谷の跫音(〜かむざし〜」(署名 △△△生)六首〔『アザリア』第三輯(盛岡高農アザリア会、大正六年十月十七日)〕五首目。実習服がどうやら、日常の生活の場所とは別の所に保管されているらしい様子は、この作品に至って明らかになるのだが、既に、抽出歌以前の作品に関連して言及したのでここでは繰り返さない。抽出歌においては、短歌定型の観点から冒頭三句の「ぽけっとの暗がりにかむざしはあり」の第二句と第三句との句切りをどこに置いたかということに目が行った。意味の上からは「ぽけっとの/暗がりに/かむざしはあり」となるであろう。しかし、そうすると「五五七」となり「五七五七七」の短歌定型からするといかにも不自然である。短歌定型を守るとなると、「ぽけっとの/暗がりにかむ/ざしはあり」となるのだが、「かむ/ざし」という分割を作者は許容したであろうか。嘉内の短歌定型観やいかんの問いを抱いたということのみを記しておこう。
(盛岡大学学長)


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