2009年 11月 3日 (火)

       

■ 〈イタリアンチロルの昼下がり〉82 及川彩子 もうひとつの斜塔

     
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   イタリアの斜塔と言えば、ピサの斜塔とボローニャの旧市街にある斜塔が、その代表ですが、ベネチアの干潟の島にも、もう一つ斜塔があります。

  この島の斜塔は外国人にはあまり知られていませんが、ベネチアで長年ガイドをしている友人の千賀子さんも、「お奨めスポットよ」と教えてくれました。

  干潟の島はブラノ島。ガラス工場の集まるムラノ島の北に位置し、ベネチアの中心サンマルコ広場から船で40分。家の壁を色とりどりに塗ったカラフルな町があり、産業は漁業とレース刺繍です。

  島に近づくと、船の上から色彩豊かな街並みの間に斜塔が見えてきます。サン・マルティーノ教会の鐘楼〔写真〕で、干潟の運命か、長い年月をかけ傾いてきたのでしょう。町の中では迷路のような小路のあちこちから見え隠れし、不思議な空間を作り出しています。

  柔らかい地盤の干潟に、石の街を造るのは容易ではありません。かつて水鳥の巣のような干潟の住居に住んでいたベネチア人が、本格的に街造りを始めたのは12世紀。地下の固い粘土層に木の杭を打ち込み、その上にカシの木の板、さらにイストリアという石を積み上げ、町の土台を造ったのです。

  杭は、泥の中なので空気が遮断され、上から圧力がかかり、腐らずに石炭のように硬化します。さらにアドリア海沿岸で採掘されるイストリア石が海水に強いことも効果を高めたと言われます。

  そんな努力にもかかわらず、次第に傾いてきた鐘楼ですが「何百年も傾いているのだから、明日あさってに崩れるわけがない。大丈夫、大丈夫。いい傾き具合だろ」と、島人たちの陽気な笑い声が聞こえそうです。

  イラ立たず、ゆったりと歩き、荷物が重かったらベンチで休憩…そんな暮らしに似合う古い斜塔の町は、普段忘れかけていたものを呼び戻してくれるのです。

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