2009年 11月 11日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉150 伊藤幸子 「アフリカのうた」

サバンナの生命育むスコールに新芽追ひつつヌーの大移動
片野千浪
 
  スケールの大きい歌集を読んだ。ネービーブルーの表紙にタンザニアの地図、燃える夕日の写真が飾られ「アフリカを恋ふ」と横書きのタイトル。昨年11月発行の、昭和12年生れの作者の第一歌集である。

  この方を語るとき、つい「脳腫瘍の」と口をついてしまうけれど、病気の歌は「十年前蓋あけられしわが脳の復元見むとCT撮られぬ」の一首のみ。そして昨年は「術後二十年たちましたね。成人式です」と、手術をされた先生にお墨付をもらわれたという。忙しく、健康で行動的な作品群に、世界地図をかたわらに氏の七十年余の風景をのぞいてみた。

  「八年のアフリカ生活終へし子を『アフリカ人』と級友ら呼べり」「ヨーロッパのお臍と言はるるベルギーで子育てせしは二十年前」「マレーシアのすべてを見むと東西の十三州を訪ね尽しぬ」ご主人の転勤により、昭和43年よりアフリカで8年、50年ベルギー・ブリュッセルへ。平成9年からはマレーシア・クアラルンプールで7年間暮らされた。実際に短歌を作り始めたのは平成3年ということで、ともすれば回想詠になりそうなものだが、ここでは実に生き生きとした体験作品が並ぶ。

  折しも、今話題の映画「沈まぬ太陽」を見た。山崎豊子原作、国民航空社員の恩地元を渡辺謙、対極に行天四郎(三浦友和)がいる。カラチ、テヘラン、ナイロビと劇中の恩地のたどる海外ロケの迫力。アフリカの草原を象やライオンが駆けまわる。私は映画館の大音響の中で、終始女性の目で詠まれたやまとことばの一歌集を思っていた。まさに事実は小説よりも奇にして生活者の真の体感に打たれる。

  「川岸の水の深みに大小の鰐ひそみをり枯木のやうに」「簡易文字町にあふるる北京にて万葉仮名をわれは思へり」そして「使はずに忘れかけたるフランス語呼び戻しつつムール貝食む」といった日常。現在は東京町田市の小中学校で、外国籍の子供たちの日本語サポーターとして活躍中。「この地球の外に住む術まだあらず陣取り合戦太古より続く」病む地球を地球規模でとらえる作者の愛と気概に満ちた一巻に強く惹かれている。

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