2009年 11月 12日 (木)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉82 望月善次 うろこ雲、そらいっぱいに

 うろこ雲、そらいっぱいにひろがりて
  わが笑ふまへの 秋の田と畑
 
  〔現代語訳〕(空には)うろこ雲が空一杯に広がっていて、(目を転ずると、地上には)私の(喜び)笑いの前に(豊作の)秋の田と畑が広がっています。

  〔評釈〕「阿提目多伽抄」〔『アザリア』三号〕七首の三首目。前回や前々回の抽出歌は、「秋への親しみ」を側面から少し捻(ひね)ってみせたものだったが、この抽出歌は「秋への思い」を正面から取り上げたもの。「鱗雲(うろこぐも)」は、「空一面に斑点状または列状に広がる雲。巻積雲または高積雲。…鯖(さば)雲、羊雲とも呼ばれ、漁夫は鰯(いわし)大漁の兆とする。」というのは『広辞苑』の説明。「うろこ雲」と「秋の田と畑」との対比は平凡といえば平凡。しかし、視線の転換(抽出歌の場合は、空から目前の田と畑)は、賢治短歌の基本的な用法の一つでもある。ところで、賢治との共通性といえば、「晴れ渡った空と豊作の田(畑)」の共通項を持っているあの辞世歌〔「方十里稗貫のみかも稲熟れてみ祭三日そらはれわたる」〕を思い出してしまった。「ここでも、嘉内は賢治を先取りしていた。」と言えばあまりの強弁。
  (盛岡大学学長)

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