2009年 11月 14日 (土)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉83 望月善次 真実の この恋ごゝろ

 真実の この恋ごゝろ 注ぐべき 
  白きおもわのやゝに冷たし
 
  〔現代語訳〕真実のこの恋心よ。(この真実の恋の心を)注ぐべき(あなたの)白い面輪は、少し冷たいのです。

  〔評釈〕「阿提目多伽抄」〔『アザリア』三号〕七中首の四首目。「阿提目多伽抄」の内容は、二つに分かれていて、前回までの三首は、「秋への親しさ、喜び」を歌ったものであるが、今回からの四首は「恋の思い」を歌うものである。「恋の歌」の出来上がり具合は二つに分かれる。昂ぶっている話者が、昂ぶりそのままの情熱を見事に押し出した場合と、昂ぶった話者が、なかなか対象を冷静に見つめることができずに失敗する例とである。抽出歌の場合「真実の この恋ごゝろ」と「真実の」という強いカードを冒頭で切ってしまったから、後は余程しっかりとした表現がこれを支えるしかないのであるが、「白きおもわのやゝに冷たし」では、いかにも不十分で支え切れないのである。自身の恋の真実さを告げたいのなら、あの「われはもや安見児得たり皆人の得がてにすといふ安見児得たり(藤原鎌足、万葉集巻二、95)」のように、徹底的にあけっぴろげに行くしか手がないのだとも言えよう。
(盛岡大学学長)

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