2009年 11月 18日 (水)

       

■ 〈国際日本文化研究センター海外シンポジウム報告〉下 望月善次

 <第二セッション概要>
     
  発表の報告者と第2セッション座長のP.A.ジョージ博士(ネルー大)。  
 
発表の報告者と第2セッション座長のP.A.ジョージ博士(ネルー大)。
 
  前回は、国際日本文化研究センターの第16回海外シンポジウム〔2009.11.3〜4、インド・ネルー大学(Jawaharlal Nehru University/JNU)〕の概要について述べた。今回は、報告者の発表を中心にして述べたい。

  報告者の発表は、初日の11月3日(火)。全6セッションのうちの「第2セッション」でテーマは「近現代文学」であり、発表者5名、うち日本側発表者3名とインド側発表者2名。座長は本シンポジウムのインド側担当者でもあるP.A.ジョージ教授(ネルー大)。

  報告者を除くテーマは次のようなものであった。

  ウニタ・サチダナンド(Unita SACHIDANAND,デリー大)「"State of Japanese Literature Studies in India:Recent Development and Challenges"(「インド文学における日本文学研究の現状〜今日の発展と課題〜」)」

  中川成美(立命館大)「日本文学研究の国際的な理論構築に向けて」

  堀まどか(国際日本文化研究センター)「野口米次郎とインド〜タゴール・野口論争の再検討へむけて〜」

  P.A.ジョージ(P.A.George、ネルー大)「"Indian Traslation of Modern Comtemporary Japanese Literary Works:An Appraisal"(「インドにおける日本現代文学作品の翻訳とその評価」)」

  中川氏の広い視野に基づいた知見との出会いは、今回の収穫の一つ。堀氏のものは、啄木とも関係のある米次郎についての発表でそれだけでも興味の持てた好発表。ウニタ、ジョージ両博士は、デリー大(2007〜2008)、ネルー大(2007)の客員教授を務めた際の受け入れ教官でもあり、報告者の最も親しいインドの友人。その発表の基本的なものには、従来から親しみのあるものだった。

     
  会場となったネルー大学全景。さながら一大植物園の中のキャンパス  
 
会場となったネルー大学全景。さながら一大植物園の中のキャンパス
 
  <報告者の発表概要>

  テーマは、「インド、中国における石川啄木及び宮澤賢治受容概要と今後の展開の可能性」。

  その骨格を5つの点から示すと次のようになる。

  @石川啄木及び宮澤賢治の略歴Aインド、中国における石川啄木及び宮澤賢治受容の現状B日本以外の国で石川啄木、宮澤賢治を読む意味C望月のかかわりD今後の展望

  @については、全集等の写真によりながらの各々の生涯の紹介、Aについては、まだ始まったばかり、Bについては「日本人の心の索引」としての啄木短歌、賢治については、「『文学を』でなく『文学も』」の生涯、国家や地球やこの世を越える視線へのまとめ、Cについては文字通りの自身の体験、Dについては「大切な友人」であることが基盤というのが、その骨格であった。

  <発表の新しい点>

  上に示したように啓蒙的な部分を多く含んだ発表であった。自身として新しいと自覚できたのは、賢治の「この世」を越える部分の例証として、同様なことがインドに詩人にもある点を指摘した点であった。つまり、賢治の生涯は、一般的な出世などを考えていた生涯でなかったことをインドの詩人ニレンドロナト・チョクロボルティ(Nirendran th Cakrabarti)は、その代表作の一つ「オモルカンティ(Amalk nti)」において次のように歌っている。

  「わたしの友だち、オモルカンティ/わたしたちは学校でともに学んだのである。/……わたしたちには教師志望のものもいたし、医者や弁護士をめざす者もいた。/オモルカンティはそうしたものには少しもなりたくなかった/彼は日の光になりたかったのだ。」

  〔臼田雅之訳『詩と思想』275号(土曜美術社、2009)pp.35〜36.〕

  果たして賢治が「日の光になりたかった。」かどうかは分からない。しかし「教師や医者や弁護士」などこの世に受け入れられやすいものを目指したのではなかったことだけは確かであろう。賢治の生涯が理想的な生涯であったなどと言う気持ちは毛頭ない。むしろ「一筋縄では行かぬ厄介な人」であったと思う。しかし、「この世」以外をも見つめていた賢治を理解しないと、ついに賢治作品は理解できないのではないかというのが近年至りついているところである。

  終わりになったが、「オモルカンティ」の原詩(ベンガル語)をアルファベット化してくださった臼田雅之東海大学教授、当日の英文パワーポイント作成のために力を貸してくださった高橋幸雄、照井悦幸両盛岡大学教授、三戸淳一事務員(盛岡大学)に感謝したい。
(盛岡大学学長)

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