2009年 11月 21日 (土)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉86 望月善次 やゝ足りて君うなづきて

 やゝ足りて君うなづきて別れたり、
  襖一重の騒ぎあひかな
 
  〔現代語訳〕少し満足したのです。あなたが頷(うなず)いてくれて別れたのですから。こちらは、襖一重を隔てての騒ぎ合いだったのです。

  〔評釈〕「阿提目多伽抄」〔『アザリア』三号〕七首中の最終歌。この最終作品に至って、話者が好意を持っている相手は、どうやら「色街」の女性であるらしいことがはっきりとする。文法的に言えば、初句の「やゝ足りて」の主体は、「君」である方が説明もつきやすいような気がするが、〔現代語訳〕では、「やゝ足りて」の主体は、話者であるとした。少し強引過ぎたであろうか。話者が、好意をもっている相手は、他の客に気づかれないように、別れに当たって、「うなづき」のみを返す。その思いにかかわらず、こちらは、こちらで、襖一重のみを隔てた部屋で(おそらくは、友人たちと)騒ぎ合っているのである。見方によっては、まるで、メロドラマの一コマにでもなりそうな場面である。なお、多くの高等教育機関に学んだ子弟と同じく、盛岡高等農林学校の学生たちの実家は(嘉内もそうであるが)、それなりの経済力の家庭が多く「農林さん」は、「色街」でも一つの勢力であったらしい。
(盛岡大学学長)

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