2009年 11月 21日 (土)

       

■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉117 曲崎山(まがりざきやま、1343メートル)

     
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  滝ノ上温泉を出発したのは、夜が明けぬ午前4時少し前であった。幾条もの沢が轟音をとどろかせ、急流の葛根田川へとそそいでいる。闇の奥には源流部の眠らぬ黒い森たちが潜んでいた。

  葛根田川をすり鉢状に囲む三ッ石山〜小畚山〜関東森〜八瀬森〜曲崎山〜大沢森〜大白森〜小白森〜烏帽子岳は、40`に及ぶ本邦屈指の魅惑の縦走路で結ばれている。コース上には、三ッ石山荘・八瀬森山荘・大白森山荘・田代平山荘や大深山荘が点在。ここに1泊か、もしくは2泊するなら巷(ちまた)の憂さも晴れるというもの。自然の懐で過ごすピュアな時間がありがたい。

  曲崎山は、葛根田川の最深部のピークである。滝ノ上温泉を起点にすると、烏帽子岳から時計回りで登っても、逆回りの三ッ石山から登っても、コース中間に位置することから、どのみち20`歩かねば曲崎山へは足がとどかない。

  この秋、山荘に泊らず一気に40`を歩くという計画を仲間が立てた。滝ノ上温泉から三ッ石山へ上がり、烏帽子岳を経由して滝ノ上に下るとなれば、少なく見積もっても20時間は連続して歩くことになろう。

  それは夜間行動も含め、ゾーッとするような不眠の計画であった。私はかねがね「曲がった崎」を実感したいと思っていたため、曲崎山を通過する正午ころにはじっくり観察できると思案した。
 
  曲崎山は葛根田川の源頭をなすピークである。東面を一気に登って振り返ると八幡平や岩手山・畚岳(もっこだけ)が片手の指で摘めるほど近い。コンパスはここで45度方向転換し、南方の大沢森から大白森と続く。ところが、凡庸とした稜線で、通過しても山体は曲がった素振りも見せてはくれなかった。

  眼下の森はブラックホールのように巨大な吸引力で私を圧する。もしかしたら、テラノザウルスの恐竜だって生きのびているかもしれない暗緑色のジュラシックパークだ。高層湿原をともなう豊富な沢は一気加勢に葛根田川に注ぎ、曲崎山の下部で一つ二つ湾曲。ギクッと曲がるのは流れか、それとも尾根か。

  調べると、「葛根田川の上流部が秋田側に掻きこむように迂回し流れるので、これに伴い脊梁尾根も大きく湾曲する崎にあることに名の由来がある」と、新日本山岳誌に書かれていた。地図で地形を照合することで、曲崎山の本来の意味を読み解くことができよう。

  22時20分、滝ノ上温泉に無事下った。人は、時にチャレンジすることで、ぶっ続け歩くのだ。言いたくないけど、そりゃヨレヨレのヘ〜ロヘロ、だった。

(版画家、盛岡市在住)

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