2009年 11月 24日 (火)

       

■ 〈風のささやき〉12 重石晃子 白鳥物語

     
   
     
  高松の池に、やっと白鳥の一群が飛んできた。北国のシベリアから気流に乗って来るのであろうが、迷わずに、広い海を渡る。

  今年は特に、白鳥の飛来が待たれた。それは昨年の雪解けのころに知ったのだが、1羽の白鳥がけがをして飛ぶことができず、たった1羽、この池に残ることになったのである。

  池の管理人が心配し、ボートに巻き込まれないように看板を立てたり、餌のやり方も工夫していると聞いた。夏の暑い間、けがの鳥はさぞ苦しかろうと、私も気にかかり散歩のたびにその姿を探した。暑い盛りなのに、水に入ることもせず、木陰の芝草の上でうずくまっている白鳥は、いかにも寂しげであった。羽の色艶(つや)も失せ、やせ細って、この夏を1羽で越せるのだろうかと心配した。

  池の周りを犬連れで歩く人、ジョギングする人たちも、汗をふきながら必ず立ち止まって見舞って行く。近所に住む友人も、わがことのように気にかけていた。ちょっとした人気の白鳥である。

  強い台風も去り涼風が立って、やっと鳥の群れが北の国から帰って来たのだ。たった1羽であったけがの白鳥も、さぞかしうれしかろう。自分のことのように安堵したが、羽根の艶は大分回復したとはいえ、けがは今年中に完治するのか、遠くシベリアまで飛べるのだろうか、新しい心配事も心をよぎる。

  飛来した最初の一群は8羽、それに灰色の子白鳥が1羽混じっていた。この子白鳥の話だが、どうやら親なし子らしいと、友人はいう。

  北国から飛んできた8羽の白鳥は、いっしょに泳いだり、空を飛んだりしているが、灰色の子白鳥はいつも置いてきぼりである。子供が寂しく泳いでいるとき、必ずけがの白鳥が、付かず離れず一緒にいるという。「まあなんと親切でしょう」人は勝手に、一喜一憂をする。

  今や、散歩する人の数だけ白鳥物語が生まれるだろう。白一色の雪になる少し前に、華麗な紅葉に彩られる高松の池ではある。
(画家、盛岡市在住)


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