2009年 11月 26日 (木)

       

■ 〈お父さん絵本です〉285 岩橋淳 黒グルミのからのなかに

     
   
     
  スコットランドの民話をもとに描かれたという本作は、神話の一挿話のようなたたずまいの、荘重かつ深遠な物語です。

  表紙、海を望んでたたずむ少年が後ろ手にもつもの、これは旗にも見えますが、実は巨大な鎌(かま)。研ぎすまされて輝くのではなく、逆に光を吸収してしまうような、艶をも見せない黒が、不気味な異質感さえ抱かせます。

  それもそのはず。これは、死神の鎌。

  主人公の少年ポールは、最愛のお母さんを迎えに来た死に神を無我夢中で退治し、その鎌を取り上げてしまったのです。足許には、身の丈2bはあったかという死神(老婆の姿に身をやつしている)を封じ込めた、黒グルミの殻。…しかしこの物語は、ポール少年の母を思う気持ち、愛の力をもって悪霊も退散でめでたし、というものではないのです。

  死神のいなくなった世の中は生と死のバランスが崩れ、深刻な事態が訪れます。母を思う一心でけなげに闘った少年が手にしたのは、勝利ではなく、苦悩。

  フラットな画調。恐らくは初冬の北の海の荒々しさ、漁師町の生活感を排し、音の反響をさえ許さないような一種無機質なタッチ(暖色を使っても決して温かではない)が、生と死、という重いテーマを語るのに、かえって効果を発揮しています。

  【今週の絵本】『黒グルミのからのなかに』M・マンゴー/文、C・セゴヴィア/絵、とき ありえ/訳、西村書店/刊、1575円(2005年)

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