2009年 11月 28日 (土)

       

■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉118 稲庭岳(いなにわだけ、1078メートル)

     
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  浄法寺は「うるし」「天台寺」「草原と風車」「野菜・手作り加工品」など魅力満載だ。ただ、里山マニアなら「稲庭岳!」と、まっ先にあげたい。斜面に刈った稲をハセ架けしたところ、巨大な稲積みに見誤られたという稲庭岳は、二戸市浄法寺町の西端にある。

  そもそも私が稲庭岳を知ったのは、岩手大学特設美術科の伊藤昌夫先生にお供して浄法寺を訪ねたことに始まる。先生は、天台寺に伝わる「面」を造形美の観点から学術調査されていた。目から鼻へ、口から目へコヨリを通し、いかなる曲線が美的法則として関与しているか…そのような研究だった。

  何でも見てやろう…的な軽い気分で私は浄法寺を巡った。こうもり傘を広げたような高原が稲庭岳とはツユ知らず、ショッキングピンクに染まる夕焼けだけが記憶の底に残っている。

  あのころから比べると、久々に訪れた稲庭岳は様相を一変、とってもハイカラな風景になったと思う。幾本もの沢が標高1078bのピークから安比川に注ぐ。山肌を取り囲む漆沢牧野・芦名沢牧野・遠野牧野・高曲原放牧場・白樺野放牧場では、草を食む牛の群れが牛歩の移動だ。平成13年に完成した3基の風車が西風を上手にとらえ、グワ〜ンと唸っていた。
 
  「一人?クマに注意してよ〜」キャンプ場のお姉さんが背中越しに叫んでいる。「ハァ〜イ」と私は顔で笑い、気持ちでビビった。熊鈴を若干強く振り、キャンプ場を出発。ジグザグと規則正しく50回も折れながら高度をかせぐ。

  その後は、緩やかに直進して祠(ほこら)や方位盤・二等三角点のある展望台に着く。北から時計回りに八甲田、名久井岳、折爪岳、南へ西岳、七時雨山の大展望である。このコースは40分で登ってしまう。

  同じ路を下り、車で駒形神社登山口へ移動する。牧野を南から北に横切り、わき水の「岩誦坊」方面へ下って「駒形神社入口」のそばに駐車。神社を経由して往路1時間30分、復路1時間かけて再び登り返した。

  岩誦坊(がんしょうぼう)は伝説の名水だ。昔、あるお坊さんが金鉱を当てようと掘り進んだところ、多量の水が噴出し、それ以上掘ることができなくなったとか。年中5〜7度の水温を保ち、近在の人々が引きも切らずにくみにきている。

  昭和35年当時、開拓で入植した小山田ミナさんは冷水でつくった豆腐や凍みダイコンを販売する。「子供のころは泳いで遊んだけど、冷たすぎて5分と入っていられなかった…」と笑った。稲庭岳は生活と共にある名山であろう。

(版画家、盛岡市在住)

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