2010年 4月 6日 (火)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉140 望月善次 あの男は小さき林で

 あの男は小さき杯でキュラソオをのんで一人で小唄うたへり。
 
  〔現代語訳〕あの男は小さい杯でキュラソーを飲んで、一人で小唄を歌ったのです。

  〔評釈〕「東京悲哀調」五首〔『アザリア』六号(大正七年六月二十六日)〕中の最終歌。第二句の「杯」の訓(よ)みは短歌節調の上から「ハイ」であろう。ちなみに「杯」は「木+不(増す)」で、「台の上部に酒を注ぎ入れるものがついている木製品。」が原義で、良く使われる「盃」は俗字。「小唄」は、「三味線伴奏歌曲の一つ。江戸末期に清元節演者が余技的に始めたもの。明治中期から特有の皮肉を含んだ歌詞、曲調が現れ、大正期にお座敷芸から演奏会形式や家元制度が確立した。」〔『マイ・ペディア』〕のだという。新しい文化のにおいを持つ「キュラソー」と大正期の話題の芸能ではありながらも、「歴史」の蓄積を思わせる「小唄」の対比。底を流れる心情としては、悲しみの淵にいる嘉内、自ら「東京悲哀調」を掲げざるを得なかった嘉内の心には、抽出歌のように、いかにも当時の東京の風俗の一端を示すと受けとめられる情景が「悲しみの反映」として映ったことは間違いがあるまい。
(盛岡大学学長)

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