2010年 4月 7日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉171 伊藤幸子 「有夫恋」

 子を生みしことは幻 天高し
               時実新子

  「女の子も男の子も、わが子の可愛さに変わりのあろうはずはないけれど、女の子を生むということはライバルをこの世に1人ふやしたことであり、男の子は恋人を生むに等しい」とは川柳作家時実新子さんの「じんとくる手紙」の一節。さらに「再婚ですがよろしく」の章には「私は結婚した。世間様から見れば再婚だろうが、ところてんのように押し出された17歳の嫁入りを私は結婚とは思っていない。58歳の新しい出発、初めて自分の意志で結婚する時、私は娘にも息子にも、まだ生きていてくれた両親にも相談をしなかった。死んだ人は日増しに美化され、彼らは父親への敬愛を深めていく。仏壇も早々に息子がかついで持ち帰った…」

  少し引用が長くなり、新子さんには眉をひそめられるかもしれない。再婚か|。生まれも育ちも全く違う二人が出会い、同じ道を歩み始めることのふしぎさ。初婚でさえも大変なのに、子もあり家もある二人がさらにひとつの家を作るという「事業」はむずかしいだろうな、と思う。でも、そうして踏み出す新しい道なればこそ、こんどこそ同じ景色を喜びと共に眺め、買物かごを二人でさげて、たえずおしゃべりをして、飲んで歌って…と、私は新子さんに同意し喝采をした。ご主人はいつも「あんたはぼくの親友や」と言い続けられたという。嬉しいだろうな、そんな風にいわれたら。

  周囲を見回してみても、レストランなどで互いを見合って楽しそうに話しながら食事をしている図はいいものだ。でも、たいていそんな二人は夫婦でなく、本物の夫婦は黙々と食べ、女性が会計をするという話も聞いた。

  どんなに仲がよくても、たった二人だけの人間関係というのは疲れるかもしれない。とりとめもなくそんなことを考えていたら電話が鳴った。東京に住む長女だ。彼女の声より先に「私ねえ、やっぱり再婚しようかと…」と言ったとたん「お母さん、エープリルフールのネタは新しいのにして!」と笑われた。同じ話は聞きあきたと言いながらことしも東京のお花見のおさそいだ。「菜の花の風はつめたし有夫恋」私はいそいそと旅支度を始めた。


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