2010年 4月 8日 (木)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉141 望月善次 二十銭のハヤシンスの鉢を

 二十●(銭の金偏なし)のハヤシンスの鉢を買ひし夜は
  露店がみんな美しかりき。
 
  〔現代語訳〕二十銭のヒヤシンスの鉢を買った、夜は露店がみんな美しかったのです。

  〔評釈〕「都市居住者」九首〔「東京雑信」、『アザリア』六号(大正七年六月二十六日)〕中の冒頭歌。「ハヤシンス」は「ヒヤシンス(hyacinth)/ヒヤシント(風信子)、花言葉=競技、遊技」の英語発音を忠実に反映したもの。花(の鉢)を買うという行為は当時の男性としては、それほど一般的な行為ではなかっただろうから、そこに一種の「心躍り」が見えるのである。もちろん、その夜の露店が客観的に格別に美しかったわけではあるまい。客観的に見れば変わらないそのすべての露店が、話者の主観としては、普段より美しく見えるのであり、そうした心の動きが「詩歌」となるのである。当時としては、珍しい花であったヒヤシンスや「露店」も雰囲気醸成に一役買う。ところで、啄木好みの嘉内のことである、「花を買う」という行為にかかわる啄木の絶唱「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ/花を買ひ来て/妻としたしむ」〔『一握の砂』128〕も心のどこかにあったのであろうか。
(盛岡大学学長)

本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします