2010年 4月 10日 (土)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉142 望月善次 桜花散るか散らぬに

 桜花散るか散らぬに流行の夏帽かむる
  日比谷のおとこ。
 
  〔現代語訳〕桜の花が、散るか散らぬ間に、流行の夏の帽子をかぶる日比谷の男よ。

  〔評釈〕「都市居住者」九首〔「東京雑信」、『アザリア』六号(大正七年六月二十六日)〕中の二首目。「散るか散らぬに」の「か」は助詞で「一つに決めがたく、列挙した中から選ぶ」〔『広辞苑』〕の系譜ものか。「かむり」は「被り(かぶり)」の転。「かがふり(被り、冠り)」、「かうぶり」などを経て「かぶり」に至っていると言われ〔『岩波古語辞典』〕、「頭からかぶる」が原義。一首全体としては、言うまでもなく、流行に敏感な「都市居住者」の様子に及ぼうとしたもの。理念的な解釈としては、この「日比谷のおとこ」が話者自身だとすることも可能ではあるが、この場合は素直に「都市居住者」の生態の一端に触れたものだとするべきか。ところで、「夏の服装」と言えば、嘉内が親炙(しんしゃ)していた啄木にも、盛岡時代を歌った「煙一」の中に、あの「花散れば/先づ人さきに白の服着て家出づる/我にてありしか」〔『一握の砂』168〕がある。発想の点でも類似していることも指摘しておこう。
   (盛岡大学学長)

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