2010年 4月 24日 (土)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉147 望月善次 落日に浪子は泣けと

 落日に浪子は泣けと矢はとびて窓をの
  ぞめば戦明りす。
 
  〔現代語訳〕沈もうとする太陽に向かって浪子は泣けというように、矢は飛ぶのですが、窓の方をみますと、まるで戦いのような明るさです。

  〔評釈〕「都市居住者」九首〔「東京雑信」、『アザリア』六号(大正七年六月二十六日)〕中の七首め。結句の「戦明りす」の「戦」は、嘉内のノートによって「いくさ」とした。「舞台音痴」の苦しさは相変わらずだが、抽出歌においては、この事情にさらに結句の「戦明り」が加わっている。一応「戦闘などによって引き起こされる戦火の烈しい明かり」ではないかと推量したが、自信のないことおびただしい。舞台の様子についても確かな解説を与えることができずにお恥ずかしい限りであるが、いずれにしても、舞台を見ている話者の背後には「東京雑信」の冒頭に掲げた「春の末より初夏まで若者道をさまよひて石につまづきて倒れたり、起たんか、倒れしままに居らんか 東京雑信の出づる処けだしこゝにあり。」の切実な思いがあることは忘れてはなるまい。そうした点からすれば、第四句から結句にかけての「窓をのぞめば戦明りす」は、単なる観劇描写ではなく話者の心象風景とも言えよう。
(盛岡大学学長)

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