2010年 4月 28日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉174 伊藤幸子 「さよなら歌舞伎座」

 歌舞伎座へ昔引かれた手を引いて
                松永智文
 
  「お名残歌舞伎座特集・歌舞伎川柳」より。2月の募集に800句をこえる投句があった由。イヤホン解説員の園田栄治氏の選と選評が実におもしろい。前初は6歳のおうちゃん作「かぶきざがたてかわったらまたくるね」。こういうかわいいお客さまが掲出句のような天賞作品へとつながっていくのだろう。「親が子を子が祖父母つれ木挽(こびき)町・小林陽一郎」「受売りは觀翁さんの豆知識・ヤッチー」私も大ファン、小山觀翁さんの解説は幕合いでもイヤホンを離さず聴き入る。高木美智子さんのお声も耳に心地よく、舞台のしつらい、衣裳のこしらえにはメモがまにあわず聞きほれてしまう。

  「さよなら歌舞伎座・あと26日」のカウントデーに早朝から並んで当日券を手に入れることができた。今月は各家総出演で最高の顔ぶれ、私はまる一日居続けて昼夜どっぷり、名残の舞台を楽しんだ。演目はみな何回か観ているが芝居は生もの、その都度新しい発見、感動がある。ましてや今回はフィナーレだ。

  さてさてここは両国橋に近い大川端。「三人吉三(きちざ)」のそろいぶみ。ほんにうぶな娘と見しが夜鷹のおとせのふところから百両の金を奪い、大川につき落とす。これこそ盗み悪党のお嬢吉三と呼ばれる男(尾上菊五郎)。これを見ていた者、その百両を貸せと迫る。御家人崩れのお坊吉三(中村吉右衛門)のすごみのせりふが肺腑をえぐる。私は播磨屋のお坊吉三は初めて見た。と、そこへ割って入ったのが元は吉祥院の所化(しょけ)で今は盗賊となった和尚吉三(團十郎)である。すごいすごい!同じ板の上で天下の名優の名場面が展開する。

  中村屋勘三郎、勘太郎、七之助親子三人による連獅子の呼吸の合った舞い。「かかる嶮岨の巌頭より/強臆ためす親獅子の/恵みも深き谷間へ/蹴落とす仔獅子はころころころ/落つると見えしが身を翻えし/爪を蹴立てて駆け登る…」やがて親子の獅子たちは牡丹の花にたわむれ遊ぶ。豪快な毛振り、百獣百花の王の貫禄に痺(しび)れた。歌舞伎座の二階には数々の名画が掲げられてあるが、私は今回も川端龍子の、青獅子と白牡丹の図にみとれた。「さよなら歌舞伎座、たてかわったらまたくるね。」
  (八幡平市平笠、歌人)

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